「自分は部下思いの良き上司だ」と信じて疑わない。そんな自信が、ある日突然、脆くも崩れ去る瞬間があります。かつては美徳とされた熱血指導や家族的な付き合いが、現代の職場では致命的なリスク要因となり、管理職のキャリアそのものを脅かすケースがあるようです。ある男性のケースをみていきます。
「明日から、部下のいない部署へ…」月収70万円・48歳営業部長、人事部から突きつけられた「A4用紙3枚のレポート」、その衝撃内容 (※写真はイメージです/PIXTA)

40代管理職、人事部長からの呼び出し

「俺は、部下を家族だと思っていました。面倒見のいい上司だと、自分では信じて疑わなかったんです」

 

憔悴しきった表情でそう語るのは、都内の中堅商社に勤める高橋誠一さん(48歳・仮名)です。高橋さんは新卒で入社以来、営業一筋25年。その実績が買われ、3年前には営業部の部長に昇進しました。

 

現在の月収は70万円ほど。体育会系のノリでチームを引っ張り、目標未達の月があれば、自腹で飲み会を開いて部下を鼓舞する――。そんな「昭和気質」のリーダーだったといいます。

 

しかし、その自信は、ある月曜日の朝、人事部長からの呼び出しによって粉々に打ち砕かれました。

 

「通されたのは、防音設備の整った面談室でした。人事部長は何も言わず、机の上にA4のレポートを置いたんです。タイトルには『管理職に対する多面評価(360度評価)結果報告書』とありました」

 

そこには、高橋さんが想像もしなかった部下たちの「生の声」が、匿名でびっしりと書き連ねられていました。

 

『飲み会への参加を強制される空気が苦痛。断ると翌日の機嫌が悪くなる』

『「期待しているから厳しくするんだ」という言葉が、ただの圧力にしか聞こえない』

『休日に届く「元気か?」というLINEが恐怖でしかない』

『武勇伝の自慢話が長く、業務時間を圧迫している』

 

高橋さんが「コミュニケーション」だと思っていた行為のすべてが、部下たちにとっては「ハラスメント」や「業務妨害」としてカウントされていたのです。

 

「頭が真っ白になりました。『みんな楽しそうに飲んでいたじゃないか』『LINEだって、スタンプで返してくれていたじゃないか』と反論したかった。でも、人事部長に冷たく言われました。『彼らは、あなたの権力に忖度していただけです。これだけの不満が蓄積している以上、組織運営は任せられません』と」

 

下された辞令は、総務部付の「担当部長」への異動でした。肩書きこそ部長ですが、部下はゼロです。主な業務は社内備品の管理や、複合機のリース契約の見直しです。年収は役職手当のカットにより、1,000万円から750万円へと激減しました。

 

「営業のエースだった自分が、コピー用紙の発注数を数えている。誰にも合わせる顔がなくて、昼休みはずっと個室トイレに籠もっています。妻に減給のことを話したら、『あなたが家でやっていることと同じことを会社でもやってたんでしょ? 自業自得よ』と言い放たれました……」