久しぶりに顔を合わせる家族との再会は、本来なら安堵と喜びに満ちた時間のはずです。しかし、高齢の親が1人暮らしを続けるなかで、日常の些細な「変化」が静かに積み重なり、ある日、突然“違和感”として姿を現すことがあります。ある女性が直面したケースをみていきます。
「二度と来るな!」温厚だった82歳父が激昂…久しぶりの帰省で53歳娘が絶句した、実家を埋め尽くす“洗った空き容器”の山 (※写真はイメージです/PIXTA)

半年ぶりの帰省で発覚した「実家の異常」

「泥棒が入ったのかと思いました。でも、よく見ると違うんです。部屋を埋め尽くしていたのは、きれいに洗われた『ゴミ』でした」

 

都内在住のパート主婦、山中直子さん(53歳・仮名)。九州・宮崎県の実家で一人暮らしをする父・里中昭二さん(82歳・仮名)は、元銀行員。几帳面で厳格、曲がったことが大嫌いな性格でした。母が亡くなってからも「自分のことは自分でやる」と気丈に振る舞い、直子さんもその言葉を信じていました。

 

正月以来、半年ぶりに実家に帰省した直子さん。玄関を開けると、そこには異様な光景が広がっていました。

 

「廊下の両脇に、白い壁ができているんです。近づいて見ると、それはスーパーの発泡スチロールの食品トレーでした。きれいに洗って、乾かして、紐で縛った束が、何百、何千と積み上げられていて……」

 

リビングに入ると、状況はさらに深刻でした。テーブルの上には、ヨーグルトやプリンの空きカップがタワーのように積まれ、床には折りたたまれたレジ袋、古新聞、そして「いつか使うかもしれない」と取っておいた菓子折りの空き箱が、迷路のように配置されていたのです。家の中は「モノ」で窒息しそうな圧迫感がありました。

 

「お父さん、これどうするの? ゴミの日、忘れてるの?」

 

直子さんが古新聞の束に手をかけた瞬間でした。奥の部屋から出てきた昭二さんが、血相を変えて怒鳴りつけたのです。

 

「触るな! それはまだ使えるんだ!」

 

普段は温厚な父の、聞いたこともないような怒声でした。

 

「『トレーは工作に使える』『新聞は野菜を包むのにいる』って。でも、そんなの使い切れる量じゃありません。私が『ただのゴミじゃない!』と言って袋に入れようとしたら、『お前は物を粗末にするのか、出ていけ!』と突き飛ばされて……」

 

昭二さんの主張は、「もったいない」「資源を大切にする」という正論でした。しかし、その正義感が暴走していたのです。

 

「父は昔からしっかりした人でしたが、年齢とともに偏屈になっていったというか。最近、そんな傾向が強まった気がします……」

 

“きれいなゴミ”に埋もれて座る父。そこに、威厳あるかつての姿はありませんでした。