(※写真はイメージです/PIXTA)
「あなた様を特別な世界へ誘います」高揚感が冷や汗に変わった瞬間
「帰宅して郵便受けを開けたとき、その重厚な質感の封筒を見て、心臓が高鳴りました。真っ黒な封筒に、金色の箔押し。開封するまでもなく、それがクレジットカード会社からの『インビテーション(招待状)』だとわかりましたから」
都内の湾岸エリアに立つタワーマンションの一室。窓の外に広がる夜景を背にそう語るのは、大手企業に勤務する田中和也さん(52歳・仮名)です。
年収は額面で約1,600万円。妻の美恵子さん(50歳・仮名)は専業主婦で、私立理系大学に通う長男と、私立高校に通う長女の4人暮らしです。
「正直、嬉しかったですね。ブラックカードは選ばれた人間しか持てないステータスの証、30代の頃から憧れていたし、『ついにここまで来たか』と。リビングで封を開けて、年会費を確認すると15万円ほど。決して安くはないですが、今の自分の年収なら払えない額じゃない。そう思って、申し込みの2次元バーコードを読み込もうとしたんです」
しかし、田中さんの指はスマートフォンの画面の上で止まりました。ふと、現在のメインバンクの残高が気になったからです。
「そういえば、先週長男の後期の授業料を振り込んだばかりだったな、と。銀行アプリで確認すると、画面に表示された数字を見て、酔いが一気に冷めました」
――残高314,050円
これが、年収1,600万円を稼ぐエリートサラリーマンの、その月の全財産でした。
「冷静に考えたら、翌週には住宅ローンの引き落としが20万円、今のカードの支払いが30万円近くある。ボーナスは教育費と車の維持費で右から左へ消えていく。そもそも、年会費の15万円なんて払える余裕はなかったです」
田中さんは、新築で購入した8,000万円のマンションのローン、子どもたちの高額な学費、社会的立場にふさわしい交際費や被服費に追われ続けてきました。収入が増えるたびに生活レベルを上げてしまった結果、貯蓄らしい貯蓄はほとんどないといいます。
「年収1,600万円なんて言っても、右から左へ金が流れていくだけ。カードの審査は通るかもしれないけど、生活の実態はこれ(残高30万円)ですから……『俺は一体、何を気取ってたんだろう』と、情けないというか、笑っちゃいましたよ」
黒い封筒は、そのままキッチンのゴミ箱に捨てたそうです。