親の介護が必要になったとき、多くの人は「プロに任せる安心」や「整った環境」を優先して施設を選びがちです。しかし、十分な資金を投じて最善を尽くしたつもりでも、後になって深い悔いが残ることも少なくありません。 ある夫婦のケースをみていきます。
「母さん、ごめん」入居金1,800万円・高級老人ホームに母を預けた53歳長男……通夜の席で施設長から聞かされた「残酷な真実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「プロに任せるのが一番」と信じて疑わなかった

「週末は、妻の実家へ行ってきました。義母が私の作った肉じゃがを『ちょっと味が濃いねえ』なんて笑いながらも完食してくれて。その笑顔を見るのが目的なんです」

 

都内在住の高橋健一さん(53歳・仮名)。同い年の妻・由美子さん(53歳・仮名)とは結婚25年。世帯年収1,800万円を超えるパワーカップルですが、現在の週末の過ごし方は、かつての高橋さんには想像もできないものだといいます。
その背景には、3年前に亡くなった健一さんの実母(享年83歳)への後悔があるといいます。 当時、実母に認知症の兆候が出始めた際、多忙を極めていた高橋さん夫婦は「在宅介護は不可能」と判断。健一さんは迷うことなく、都内の高級有料老人ホームを選びました。

 

「入居一時金は1,800万円。ホテルのようなロビーに専属シェフ、24時間常駐の看護師。『これだけお金をかければ、最高の親孝行だ』と信じて疑いませんでした」

 

「プロに任せているから」という安心感からか、足は遠のき、面会は3~4カ月に1回程度。そして入居から2年後、実母は心不全で急逝しました。そして通夜の席で、わざわざ参列してくれた施設長から聞かされた言葉が、健一さんの心をえぐりました。

 

「お母様、いつも食事のときに『健一の作った卵焼きが一番美味しいの。不格好なんだけどね』と笑っておられました」


お金で安全と安心は買えました。認知症で健一さんのことをどこまで認識していたのか、今ではわかりません。ただ実母は「息子が作ってくれた料理の味」を懐かしんでいた……そのような事実の前にしても何もできない。健一さんは実母に何ひとつ与えられていなかったと痛感したといいます。