十分な退職金と年金があれば、老後は安泰――そのように信じている人は多いかもしれません。 しかし、長生きのリスクや物価高騰は、安定と思われた生活を崩壊させます。ある父娘のケースをみていきましょう。
「今日は年金支給日だから…」スーパーで半額のマグロの刺身をカゴに入れた78歳父。〈退職金2,400万円〉〈年金月20万円〉元教師の「誇り」と、娘が見てしまった「通帳残高」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「退職金があるから大丈夫」は幻想? 高齢者を追い詰める“固定費”の恐怖

修一さんのように、「公務員だったから」「退職金があったから」という安心感が、インフレと長生きのリスクによって崩れ去るケースは珍しくありません。

 

総務省の『家計調査 家計収支編』によると、65歳以上の単身無職世帯の消費支出において、食料費に次いで「住居費」や「光熱・水道費」などの固定費の割合が大きく、その比率は近年上昇傾向にあります。 特に、物価高騰の影響もあり、食料品以外の必需品(住居費、光熱費、通信費など)が家計を圧迫し、高齢者世帯の家計負担が増加している実態がうかがえます。

 

また、昨今の物価上昇は、年金生活者にとって「実質的な減額」を意味します。年金額はマクロ経済スライドによって調整されるため、物価が上がった分だけそのまま年金が増えるわけではありません。

 

さらに「現役時代の生活水準」と「プライド」が高ければ高いほど、生活のダウンサイジングは難しくなります。 「教え子や近所の目があるから、みっともない暮らしはできない」と、なかなか身の丈にあった生活を送ることができないケースも。その筆頭にいたであろう修一さん。しかし、そのようなプライドを捨てなければならないほど、今の高齢者の生活は厳しいのかもしれません。

 

年金支給日は、かつてのような「ボーナス日」ではなく、厳しい現実と向き合う「収支決算の日」といえそうです。

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編』