十分な蓄えと年金があり、デジタル機器も使いこなす活動的な高齢の親。そんな「自立した老後」ならば、家族も安心だと考えがちです。しかし、その自信や便利さが、かえって認知症の深刻なサインを覆い隠してしまうことがあります。ある親子のケースをみていきます。
「施設になんて入るか!」元上場企業の管理職だった78歳父、〈年金月20万円〉〈貯蓄4,000万円〉悠々自適な日々のはずが…娘が実家の玄関を開けて言葉を失った「異様な光景」 (※写真はイメージです/PIXTA)

一見すると買い物依存!? 実は認知症の場合も

国民生活センターのデータによれば、認知症などにより判断能力が不十分な高齢者に関する消費生活相談は高止まり傾向にあります。中でも「通信販売」に関するトラブルは、健康食品や化粧品の定期購入などを中心に、多くの高齢者を悩ませている「主要な相談項目」のひとつです。

 

なぜ、これほどまでに買ってしまうのか。背景にあるのは、認知症による「遂行機能障害」です。物事を順序立てて実行する力が低下すると、注文ボタンは押せても、「箱を開けて、設置して、使う」という一連の動作が極端に難しくなることがあります。結果、本人の意思とは裏腹に、家の中に未開封の段ボールが山積みになってしまうのです。

 

また、「なくなったら困る」という強迫的な不安や、かつて現役時代に決断を下していた「買い物」という行為そのものに安心感を求めている場合もあります。特に社会的地位の高かった人は、自身の能力低下を認めたがらず、周囲の介入を拒絶する傾向が強いため、事態が深刻化しがちです。

 

対策として、家族は「叱る」のではなく、環境を整える必要があります。購入のきっかけとなるカタログやDMを物理的に処分したり、クレジットカード会社と連携して利用を制限したりすることが有効です。また、通信販売には通常クーリング・オフ制度が適用されませんが、特約がない限り、商品到着後8日以内であれば送料負担で返品可能です。

 

そして何より、資産を守るためには「成年後見制度」の検討が不可欠です。判断能力が不十分になれば、後見人が不適切な契約を取り消したり、財産管理を行ったりできます。親のプライドを守りつつ、その資産が「ゴミ」に変わるのを防ぐには、元気なうちからの法的な備えが必要です。

 

[参考資料]

国民生活センター『2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況』

政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』