「人生100年時代」が叫ばれて久しい昨今、定年後も労働市場に留まる高齢者は増加の一途をたどっています。しかし、急速な物価高と長寿化に伴う医療費増大は、老後プランを簡単に崩壊させます。かつて年収800万円だったという、元管理職の男性のケースをみていきます。
「惨めです…」年収800万円の元部長、時給1,540円・息子ほどの若者に怒鳴られる「年末年始の警備バイト」。70歳を襲う「終わらない労働地獄」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「トイレに行けない」高齢警備員の過酷な現実

70歳の森田さんが選んだのは、年末年始も休まず稼働する「施設警備・交通誘導」の仕事でした。なぜ、もっと体力的に楽な仕事を選ばなかったのでしょうか。

 

「最初は現役時代と同じように、事務職を中心に探しました。でも、70歳を過ぎるとハローワークでも紹介される仕事が極端に限られるんです。『面接なし・即採用』ですぐに現金になる仕事となると、今の警備会社くらいでした」

 

人手不足が叫ばれる警備業界(保安の職業)の有効求人倍率は約6倍。高齢者であっても「頭数」として歓迎されます。しかし、その現場は高齢者の肉体に容赦なく襲いかかります。

 

「一番辛いのは、プライド云々(うんぬん)よりも『トイレ』です。現場によっては数時間、持ち場を離れられないこともあります。我々のような年寄りはどうしても頻尿になりますから、勤務中は水分を極限まで控えるんです。喉はカラカラ、足は棒のようで感覚がない。終わった後は膝の痛み止めを飲んで、泥のように眠ります」

 

この年末年始は、特別手当がつくと聞いてシフトを詰め込んでいるという森田さん。

 

「まさに、死ぬまで終わらない労働地獄です。でも、働いて小銭でも入ってくると、その瞬間だけは不安が少し和らぐ。惨めですが、それが今の私の精神安定剤なんです」

 

[参考資料]

総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』

厚生労働省『一般職業紹介状況(令和7年9月分)について』