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息子くらいの若者に呼び捨てされる屈辱
「現場に入ったら、年齢も経歴も関係ない。それは分かっていましたよ。でもね、まさか自分の息子くらいの若者に怒鳴られるとは思いませんでしたね」
森田徹さん(仮名・70歳)さんは、少しバツが悪そうに現場での出来事を振り返ります。
「今の現場監督は30代くらいかな。『おい、森田 動きが遅いんだよ!』って。みんなの前で言われるんです。まさか、呼び捨てされるとは」
現役時代、森田さんは40人ほどの部下を束ねる部長職でした。「もっと効率的に動け」と、デスクから部下を叱責することもしばしばだったといいます。
「昔は自分が座って偉そうに指示してたのに、今は立たされて怒鳴られてるんだから、情けない話ですよね。でも、そこで言い返したってクビになるだけでしょう。だから『すみません』って頭を下げるしかない。腹は立ちますけど、生活費のためだと割り切るしかありません」
誤算は「家の寿命」と「妻の病気」
現役時代の森田さんは、いわゆる「勝ち組」のモデルケースそのものでした。都内に4,000万円の注文住宅を建て、専業主婦の妻を支えながら、2人の子どもを私立大学まで送り出しました。
「定年時の退職金は2,000万円ほどありました。これで住宅ローンの残債を一括返済して、残りを老後資金に充てる。年金も夫婦合わせて月20万円近くありますし、慎ましく暮らせばなんとかなると高を括っていたんです」
しかし、70歳を目前にして計算が狂い始めます。最大の誤算は、自分たちの身体と、家の「老い」が同時にやってきたことでした。
「築30年を超えた自宅の屋根と外壁の劣化が激しく、雨漏り寸前だと診断されました。その修繕費で一気に300万円が飛んでいった。さらに運悪く、妻が持病を患って入院と通院が必要になり、医療費が家計を圧迫し始めたんです」
総務省の調査によれば、高齢夫婦無職世帯の平均的な支出は約25万円ですが、森田家の場合、妻の医療費やその関連費がかさみ、月の出費は30万円を超える月もあるとか。
「通帳の残高がね、毎月ガクン、ガクンと減っていくでしょう。あれを見てると、本当に夜も眠れなくなるというか……怖くなるんですよ。このままじゃマズい、じっとしてられないと思って、働きに出ることにしたんです」