(※写真はイメージです/PIXTA)
意識が朦朧とする中、大崎さんは意を決して、比較的親しいと思っていた数人に電話をかけました。 しかし、結果は無情なものでした。
「呼び出し音が鳴り続けるか、留守番電話に切り替わるだけでした。まあ、大晦日の団らんの時間帯ですからね。知らない番号や、面倒な年寄りからの電話なんて出たくないでしょう」
数回目の「只今、電話に出ることができません」という無機質なアナウンスを聞いたとき、大崎さんは、妙に冷めた感情へと変わっていったといいます。
「ああ、ダメだな、と。ここにある500件の名前は、ただの『文字データ』であって、今の自分を助けてくれる人じゃないんだな、と腑に落ちたんです」
「人間関係の整理」という皮肉な結末
幸い、翌日の元日には熱が下がり始め、最悪の事態は免れたという大崎さん。そして体調が回復したあと、大崎さんが最初に行ったのは、スマートフォンの電話帳の整理でした。
「現役時代の取引先、年賀状だけの関係、ゴルフ仲間……片っ端から削除しました。500件あった登録は、今は息子と娘、あとは地域の民生委員の番号など、10件ほどになりましたよ」
大崎さんは、自嘲気味に笑います。
「葬式の時に連絡してもらうリストのつもりでしたが、生きてる間に役に立たないなら意味がない。変なプライドは捨てました」
会社人としての看板を下ろし、配偶者を失ったとき、そこに本当の人間関係は残っているのか――。「電話帳の登録数」を誇っているだけの人間になっていないか、特に仕事に忙殺されてきた日本人男性は要チェックかもしれません。
[参考資料]
国立社会保障・人口問題研究所『2022年 社会保障・人口問題基本調査 生活と支え合いに関する調査』