高齢ドライバーによる事故のニュースを目にするたび、親の運転免許返納を真剣に考える方は多いでしょう。家族は安全を願って説得を重ねますが、車が生活の一部や生きがいになっている親にとって、それは自身のアイデンティティを否定されるような辛い決断でもあります。 しかし、事故防止という目的だけで強引に話を進めた結果、家族が想像もしなかった「別の問題」が降りかかるケースも少なくありません。ある親子の事例と統計データをもとに、免許返納後に潜むリスクと、家族が心得るべきケアについて解説します。
「免許は返さないぞ!」愛車を手放したくない75歳父vs.心配する48歳娘。強引に返納させた翌月にみた「衝撃の惨状」 (※写真はイメージです/PIXTA)

運転をやめると「要介護リスク」は2倍以上に跳ね上がる

警察庁『運転免許統計』によると、令和6年(2024年)中の運転免許証の自主返納件数は42万7,914件。前年から約4.5万件増加し、5年ぶりに増加に転じました。このうち75歳以上の返納者が26万4,916件と、6割ほどを占めています。

 

もちろん、安全のために運転能力に不安がある高齢者が免許を返納することは社会的に重要です。一方で注目したいのが、筑波大学大学院の研究チームが2019年に発表した調査データ(2019年日本疫学会誌に発表)。愛知県の高齢者約2,800人を対象とした6年間の追跡調査によると、車の運転をやめた高齢者は、運転を継続した高齢者に比べて、要介護認定を受けるリスクが「2.16倍」になったという結果が出ています。

 

免許を返納してしまえば、家族は「事故の心配がなくなった」と安堵する一方で、当事者は社会との接点、趣味、外出の動機を一気に失います。特に男性の場合、家に閉じこもりがちになり、誰とも会話しない日々が続くことで、認知機能や身体機能が一気に低下する「フレイル(虚弱)」の連鎖に陥ることも。

 

こう考えると、「車が好き/運転が好き」な健一さんにとって、「免許返納」はゴールではありませんでした。車とその運転に代わる「新しい没頭できる趣味」を一緒に探したり、あるいは「自分でハンドルを握らなくても、車で出かける楽しみ」をどう確保したらいいか考えたり。たとえば、家族がドライブに連れ出す計画を具体的に提示するなど、心のケアまで含めた準備が不可欠だったかもしれません。

 

[参考資料]

警察庁『運転免許統計』