久しぶりに帰省した実家が、足の踏み場もないほどモノで溢れかえっていたら……。かつて整然としていた姿を知っているからこそ、その衝撃は計り知れません。「親のために」と良かれと思って始めた片付けが、実は親を追い詰めてしまうこともあります。ある親子のケースから、ゴミ屋敷化の背景にあるものを探ります。
「捨てないで! 全部、思い出なの」ゴミ屋敷の実家で75歳母が絶叫。帰省した52歳娘が見た「絶望の光景」 (※写真はイメージです/PIXTA)

ゴミ屋敷は「個人の怠慢」ではない。背景にある心理的SOS

親が高齢になり、配偶者との死別や自身の体力の衰えをきっかけに、家が片付けられなくなる事例が増えています。それは専門的な視点からは「セルフネグレクト(自己放任)」という状態。生活環境や自身の健康維持に必要な行為を行う意欲・能力を喪失し、あえて、あるいは結果的に自分自身の世話を放棄してしまう状態を指します。

 

なぜ、高齢者がセルフネグレクトに陥ってしまうのか。まず挙げられるのは、加齢による身体機能の低下です。以前のように思うように体が動かず、掃除やゴミ出しといった日常的な家事を放棄してしまうのです。認知症による判断力の低下や、うつ病などの精神疾患が原因というケースもあるでしょう。また近隣との関係性の希薄化や経済的な問題により、社会的孤立を深めることで、セルフネグレクト状態になることも珍しくありません。

 

そしてよし子さんのように、配偶者との別れやペットの死といった、人生における大きな変化やツラい出来事も、セルフネグレクトの引き金になりやすいといわれています。

 

環境省『令和4年度『ごみ屋敷』に関する調査報告書』によれば、全国の市区町村の38.0%(661市区町村)が、いわゆる「ゴミ屋敷」事案を認知していると回答しています。

 

家族が久しぶりに帰省して事態の深刻さに気付く――決して珍しいことではありません。ここで重要なのは「強制的な片付け」が必ずしも解決策ではないということです。モノを溜め込む行為は、孤独感や不安を埋めるための代償行為である場合もあり、無理に取り上げることは本人を深く傷つけ、さらに孤立させてしまうリスクがあります。

 

現在、多くの自治体では、ゴミ屋敷対策を単なるゴミ処理の問題としてではなく、福祉的な課題として捉える動きが進んでいます。前述の環境省の調査でも、対応部署として「環境・廃棄物部局」だけでなく「福祉部局」が連携して対応にあたるケースが増加傾向にあり、人の心に寄り添う支援の必要性が高まっています。

 

[参考資料]

環境省『令和4年度『ごみ屋敷』に関する調査報告書』