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悠々自適な老後が一変。40歳息子の帰還で崩壊した「月28万円」の家計
「息子が帰ってきた当初は、私も妻も『かわいそうに、傷心なのだろう』と同情していました。でも、一緒に暮らして1ヶ月もしないうちに、元奥さんが愛想を尽かした理由が痛いほど分かりました。『ああ、こりゃ離婚されて当然だわ』って、妙に納得してしまったんです」
都内のマンションで、妻の美代子さん(72歳・仮名)と穏やかな2人暮らしを送っていた佐藤健一さん(75歳・仮名)は、深いため息をつきながらそう語り始めました。
健一さんは元公務員です。共働きの期間もあった妻との年金を合わせれば、世帯収入は月額28万円ほどになります。退職金で住宅ローンも完済しており、たまの旅行や外食も楽しめる「平穏な老後」が約束されているはずでした。たまに息子夫婦が孫を連れて遊びに来るのが一番の楽しみでしたが、その日常は突然の「離婚報告」で打ち砕かれます。
「『性格の不一致だ』『向こうが神経質すぎる』と息子は言って、着の身着のまま実家に逃げ帰ってきました。40歳にもなって、親を頼るしかない情けなさ。それでも親心ですから、部屋を空けて迎え入れたんです」
長男の拓也さん(40歳・仮名)との同居が始まって数日、健一さんは強烈な違和感を抱き始めました。それは拓也さんの生活力のなさ。脱いだ靴下はリビングに脱ぎっぱなし、飲み終わったペットボトルはテーブルの上に放置。風呂に入れば濡れたバスタオルを脱衣所の床に投げ出します。
「まるで小学生か、中学生。ある休日、妻が風邪気味で寝込んでいた時のことです。昼過ぎに起きてきた息子が、心配するどころか開口一番『母さん、今日の飯は?』と聞いたんです。自分の親が体調を崩して寝ているのに、自分の腹具合を優先。冷蔵庫を開けて自分で何とかするという発想すらないのです」
結局、体調の悪い美代子さんがフラフラとキッチンに立ち、息子のためにうどんを作ったといいます。その姿を見て、健一さんは確信しました。彼は結婚生活でも、家事育児のすべてを元奥さんに丸投げし、自分は「やってもらって当たり前」の大きな子どものままだったのだろう、と。
家計の負担も馬鹿になりません。独り身の気楽さからか、拓也さんは毎晩のようにビールや焼酎を飲みます。食費と酒代がかさみ、つけっぱなしのエアコンで電気代も跳ね上がりました。以前は余裕のあった月28万円の年金生活が幻のようです。
「『いい歳をして、自分のことくらい自分でやりなさい』と言っても『俺、家事の才能ないから』と言い訳をし、『少しは家計を助けてくれないか』と言えば『養育費が大変だから、そういうのはあとにして』と話題をそらす。イライラはピークで、『出て行け!』と言いたい。でも感情任せでいうのは余計なトラブルを生みます。今は、彼が自然と自立してくれるのを待っているところです」