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憧れの「湾岸タワマン」購入から20年、老後資金を枯渇させた想定外の請求
「父からのメールは、件名に『助けてくれ』とだけ書かれていました。普段は無口で、弱音など吐かない人です。何事かと思って電話しました」
都内のメーカーに勤務する浅井健一さん(45歳・仮名)は、先月起きた出来事をそう振り返ります。健一さんの父、隆さん(72歳・仮名)と母の洋子さん(72歳・仮名)が暮らすのは、2000年代初頭の「湾岸ブーム」で建設された、都区内湾岸エリアに建つタワーマンションです。当時、定年を数年後に控えていた隆さんは、退職金と貯蓄を合わせ、約8,000万円で高層階の部屋をキャッシュで購入しました。
「眺望も良く、セキュリティも万全。父は『人生の成功者の気分だ』なんて笑っていました。ローンもないので、年金生活でも余裕を持って暮らせると、私も思っていました」
しかし、購入から20年が経過した今年、事態は急変しました。管理組合の総会で、修繕積立金と管理費の大幅な値上げが可決されたのです。
「もともと管理費と修繕積立金で月額4万円ほど払っていました。それが、昨今の資材高騰や人件費の上昇に加え、タワーマンション特有の難易度の高い修繕工事が必要になったとかで、一気に倍近い8万円台になると通知が来たそうです」
隆さん夫婦の世帯年金は月額およそ24万円。現役時代のような収入はありません。そこから約10万円が「家賃」のように消えていくことになります。食費や光熱費、医療費を差し引けば、手元にはほとんど残りません。さらに恐ろしいのは、この値上げが「最後」とは限らないことです。
「父が管理組合の理事に聞いたところ、長期修繕計画の見直しによって、5年後にはさらに上がる可能性があると言われたといいます。さらに、不足分を補うための『一時金』として、各戸に100万円単位の請求が来る噂もあるとのこと……」
貯蓄を取り崩しながら生活していた隆さんですが、想定外の固定費増に戦々恐々としているようです。
「『このままでは破産する。マンションを売るしかないが、踏ん切りがつかない』とも。まあ悠々自適な老後を送るはずが、まさか自分たちを追い詰めるとは夢にも思わなかったでしょう」
健一さん自身、住宅ローンと子どもの教育費を抱えており、親を支援するほどの余裕はありません。そのことは隆さんも知っています。だからこそメールを打ったあと、子どもに助けを求めることを思いとどまり、メールを消そうとしたら間違えて件名だけの状態で送ってしまった……冒頭のメールは、そのような経緯だったそうです。