※写真はイメージです/PIXTA
父の年金月20万円で養われた「52歳息子」の誤算
「受話器の向こうで、いい歳をした大人が『もう生きていけない』と、子どものようにしゃくりあげて泣いていました。まさか、親父さんが残した家が、あいつの首を絞めることになるとは思いもしませんでした」
親戚の田村修一さん(55歳・仮名)は、従兄弟である佐藤健二(52歳・仮名)から掛かってきた電話の内容を、困惑した表情で語ってくれました。
健二さんは、地方都市にある実家で、父親の隆さん(82歳・仮名)と2人暮らしをしていました。大学卒業後に就職した会社を30代前半で退職して以来、約20年にわたり実家にひきこもる生活を続けてきました。母親はすでに他界していましたが、隆さんには現役時代の蓄えと、月額約20万円の厚生年金がありました。
「隆おじさんは昔気質の職人で、口下手な人でした。健二が働かずに家にいても『俺が生きているうちはなんとかなる。月20万の年金があるし、家賃もかからない』と言って、現状を肯定していました。健二もその言葉に甘え、昼過ぎに起きては深夜までゲームをする生活。私が法事で『おじさんに万が一のことがあったらどうするんだ』と聞いても、彼は『まあ、その時はその時で』とヘラヘラしていたんです」
しかし、その「万が一」は唐突に訪れました。先月、隆さんが心不全で急逝したのです。葬儀を終え、諸々の支払いを済ませたとき、健二さんの手元に残ったのは、古びた実家とわずかばかりの現金だけ。翌月から父の年金は止まります。
生活費が尽きる恐怖に駆られた健二さんは、意を決して市役所の生活福祉課へ向かいました。「父が死んで収入がない。もう貯金もないから生活保護を受けたい」と頼み込んだのです。しかし、窓口で担当者から告げられた言葉は、無情なものでした。
「健二の話では、窓口でまず資産の確認をされたそうです。『持ち家にお住まいですね』と。彼は『家はありますが、売ったとしても二束三文です。それに、今すぐ現金化できるわけじゃありません』と答えました。すると担当者は彼の年齢と健康状態を確認し、こう言ったそうです。『佐藤さんはまだ52歳でお若い。体に障害や病気があるわけでもない。住む家もある。生活保護の前に、まずはハローワークに行って職を探してください』と」
健二さんは「20年も働いていない自分に仕事なんてあるわけがない。精神的に働ける状態じゃない」と食い下がりましたが、医師の診断書もなければ、障害者手帳もありません。役所側からすれば、彼は単なる「働けるはずの健康な男性」でしかなかったのです。
「『自業自得』と言われればそれまでですが、あまりに救いがなくて……。親戚としても、自分の生活がありますから、これ以上面倒なことに巻き込まれないよう、距離を置くしかないのが現実です」