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80万人を超える「中高年ひきこもり」と生活保護の資産要件
佐藤さんのように、親の年金を頼りに生活していた中高年の子どもが、親の死とともに経済的困窮に陥るケース。これはいわゆる「8050問題」の最終局面です。
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、2022年度、ひきこもり状態にある人は「15~39歳」の2.05%、「40~64歳」で2.02%。人口に当てはめると、ひきこもり状態にあるのは約146万人、中高年に限ると約83.9万人と推計されています。
ひきこもり期間としては、40~69歳は「2年~3年未満」が21.9%と最多。またきっかけとしては、「退職したこと」が44.5%を占め最も多く、調査時期の影響もあり「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」が20.6%と続きます。さらに「病気」16.8%、「人間関係がうまくいかなかったこと」11.6%も多くなっています。
今回の事例で壁となったのは、生活保護制度における「稼働能力の活用」という要件です。生活保護法第4条では、保護を受ける要件として、資産や能力(働く力)など、あらゆるものを活用することを求めています。
(保護の補足性) 第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
一般的に、持ち家があっても、それが処分価値の低い居住用不動産であれば、保有したまま生活保護を受給することは可能です。「家があるからダメ」と即座に却下されるわけではありません。
しかし、佐藤さんのように身体的に健康な場合、「まずは働いて収入を得なさい」という指導が優先されます。行政の窓口では「働ける状態(身体的健康)」と「働ける能力(社会的適応)」の乖離が考慮されにくく、長期間のブランクがあるひきこもり当事者にとって、この「稼働能力の活用」が事実上の門前払いとして機能してしまう現実があります。
親が元気なうちに、社会との接点を作り直す、あるいは医師の診断を受けるなど、客観的に「働けない状況」を証明できる準備をしておかなければ、親の死後、子どもはセーフティネットからもこぼれ落ちてしまう恐れがあるのです。
[参考資料]
内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』