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年収1,000万円のプライドが邪魔をする……「半額シール」を待ちわびる聖夜の屈辱
都内の築古アパートでひとり暮らしをする佐伯隆史さん(71歳・仮名)。現役時代は専門商社で働き、50代での年収は1,000万円を超えていました。しかし現在は、年金とわずかな貯蓄を取り崩しながら、ギリギリの生活を送っています。
「現役の頃は、クリスマスといえば馴染みの高級クラブでボトルを開けたり、付き合っていた女性にブランド物を贈ったりするのが当たり前でした。でも今は、スーパーのチキンすら高嶺の花です。去年のイブ、どうしても少しはクリスマスらしい気分を味わいたくて、20時過ぎに近所のコンビニへ行きました。狙いは、売れ残った一人用のショートケーキです」
佐伯さんは、定価400円ほどのケーキが半額になる瞬間を待ち続けました。このコンビニでは、毎日20~21時に消費期限の近い商品には値引きシールが貼られていくことを知っていたからです。
店内には楽しげなクリスマスソングが流れていましたが、佐伯さんの頭の中は「早くシールを貼ってくれ」「他の客に取られたらどうしよう」という焦りでいっぱいだったといいます。
佐伯さんが独り身になったのは、まだ働き盛りだった40代後半のこと。仕事優先ですれ違いが続き、離婚。慰謝料や養育費は支払いましたが、生活に困ることはなかったといいます。
「むしろ、独りに戻ってせいせいした、と思いましたよ。いわゆる『独身貴族』です。金はある、時間は自由。毎晩のように飲み歩き、ゴルフや車にお金をかけました。『老後のこと? 退職金もあるし何とかなる』と本気で思っていたんです。再婚する気も起きず、気ままな生活を定年まで続けてしまいました」
しかし、定年後に待っていたのは、孤独と急速な資金ショートでした。現役時代の派手な金銭感覚が抜けず、退職金は予想以上の早さで目減りしていきました。
「コンビニでシールが貼られた瞬間、私は反射的にケーキをカゴに入れました。その時、ふと我に返ったんです。何で自分は、たかだか200円安くなったケーキひとつに必死になっているんだろうと。レジで小銭を探しながら、あまりの惨めさに視界が滲みました」
あれから1年。物価高はさらに進み、佐伯さんの生活はより厳しさを増しています。
「今年のクリスマスですか? ケーキはなしですね。半額になっても今の状況では贅沢品です。今年はもう、電気を消して早めに布団に入ろうと思っています」