(※写真はイメージです/PIXTA)
「夜間は看護師がいません」パンフレットの隅に隠された真実
由美子さんは食い下がりました。
「パンフレットには『医療連携』『看取り対応』って大きく書いてあったじゃないですか。だって、ホームに入居するために父は家も売ったんですよ。帰る家なんてないんですよ」
しかし施設長は「お気持ちはわかりますが、契約書の重要事項説明書には『常時の医療行為が必要になった場合は退去の対象となる』と記載がございます」と回答。確かに確認すると、細かい文字でその通りの記載がありました。 「24時間看護」とは謳っているものの、それは「日中は看護師が常駐し、夜間はオンコール(電話連絡)体制で対応する」という意味で、夜間に看護師が施設にいるわけではなかったのです。
夜勤の介護職員の中には、痰の吸引ができる研修を受けたスタッフもいますが、人数は限られています。何十人もの入居者を少ない夜勤スタッフで見ている中、健造さんのために頻繁に吸引を行うことは「物理的に不可能」と断言されました。
「詐欺にあったような気分です。父にどう伝えればいいのか……。次の施設と言われても、医療依存度が高い父を受け入れてくれる場所は費用も高い。もう資金も残り少ないのに」
このように、「終の棲家」だと思って入居したにもかかわらず、医療的ケアが必要になった途端に退去を迫られるケースは珍しいことではありません。
株式会社TRデータテクノロジーが全国約4.2万ヶ所の介護施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、グループホーム、介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)を対象にした調査によると、退去者の退去先として最も多いのが「死亡退去」で48%。実際に老人ホームに入居した半数が、ホームで最期を迎えています。
近年は住宅型有料老人ホームにおいて、主にガン末期患者を対象にした「ホスピス型ホーム」が急増。ホーム内で看取りを行うケースが拡大しているといいます。 しかし、ここで注意が必要なのは、「看取り(自然死への対応)」と「高度な医療的ケア(延命や常時の処置)」は別物だということです。
現在、日中に看護師がいる施設は多いものの、夜間も看護師が配置されているとは限りません。夜間は介護職員のみで対応し、看護師は自宅待機(オンコール)という体制は多くみられます。痰の吸引や経管栄養などの医療行為は、原則として看護師(または研修を受けた一部の介護職員)しか行えないため、夜間に頻繁な医療処置が必要になると、オンコール体制の施設では対応不能となり、退去を余儀なくされるのです。
施設を選ぶ際は、パンフレットの「24時間安心」という言葉を鵜呑みにせず、以下の点を具体的に確認することが重要です。
▼夜間の看護体制
看護師が「施設にいる」のか、「電話で連絡が取れるだけ」なのか。
▼医療処置の対応範囲
「夜間の痰吸引」「インスリン投与」「点滴」など、具体的な処置が可能か。
▼退去要件
どのような状態になったら退去しなければならないのか。
「看取り対応」という言葉の定義は、施設によって異なります。最悪の事態を避けるためにも、重要事項説明書の「協力医療機関」や「職員体制」の項目を、契約前に必ず詳細にチェックする必要があります。
[参考資料]
株式会社TRデータテクノロジー『全国4.2万ヶ所の介護施設等 約50万人の退去先データを分析 退去者の約半数(24万人)が施設内で亡くなる。近年は特養以外で、看取り対応の民間ホームが急増。』