住み慣れた自宅を「終の棲家」へリフォームする。将来への前向きな投資に思えますが、多額の出費は老後の生活を脅かすリスクも孕んでいます。良かれと思った改修が、なぜ家計の危機を招くのか。ある夫婦のケースをみていきます。
「こんなはずじゃなかった…」年金月18万円・68歳夫、退職金をつぎ込み1,000万円でバリアフリー…半年後、66歳妻「家を売りたい」と号泣したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期のリフォームは「資産性」よりも「流動性」の確保を優先すべき

国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査報告』によると、注文住宅購入者の一次取得者の平均年齢は40.3歳、分譲戸建ては37.3歳。年金を受け取り始めるころには、新築だったマイホームも築25~30年ほどになっている計算です。

 

そのころになると、そのまま住み続けるか、それとも住み替えるかの選択に迫られるでしょう。前者の場合、さらに年を重ねても住めるようにとバリアフリー化するケースも多いはずです。田中さん夫婦は、王道ともいえる選択をしたといえます。しかし2人がかけたお金は、平均をはるかに超えています。

 

同調査によると、リフォーム費用の平均は戸建ての場合168万円。1,000万円もの資金を一気に投入するのは、建て替えにも近い規模であり、平均的なメンテナンスの域を大きく逸脱しています。

 

高齢期においては「住環境の快適さ」と同じくらい、あるいはそれ以上に「現預金の確保(流動性)」を考えたいもの。リフォーム費用は、そのまま売却価格に上乗せされることは稀です。特に築古の木造住宅の場合、建物自体の評価額は年数とともに限りなくゼロに近づくため、内装や設備をどれだけ豪華にしても、市場価格への反映は限定的です。 つまり、1,000万円の現金が、換金性の低い「設備」に変わってしまったことを意味します。

 

老後は予期せぬ医療費や介護費用が発生するリスクが高まります。その際、もっとも頼りになるのはすぐに使える現金です。 高齢期のリフォーム計画における正攻法は、以下の2点に集約されます。

 

1.必要最低限の改修にとどめる

「いつか必要になるかも」という予測で過剰な設備投資をするのではなく、手すりの設置や段差解消など、その時に本当に必要な箇所だけを数万円~数十万円単位で改修する。

 

2.夫婦間の合意形成と資金計画

どちらか一方の独断で進めず、生活の動線を守る側の意見(今回の場合は妻)を尊重する。また、総資産のうち現預金比率が極端に下がらない範囲で予算を組む。

 

「家が新しくきれいになれば幸せ」というのは幻想。安心な老後生活の土台は、ピカピカのマイホームではなく、余裕ある老後資金だと考えておきたいものです。

 

[参考資料]

国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査報告』