豊かな自然の中での子育てに憧れ、地方移住を選択する家庭は少なくありません。しかし、そこには都会の物差しでは測れない「自然の猛威」が存在します。ある男性のケースを見ていきます。
年収680万円を捨てた「36歳夫の誤算」。憧れの田舎へUターン移住も、朝5時の地獄。出社できず、子は臨時休校のリアル (※写真はイメージです/PIXTA)

地域が抱える「冬の厳しさ」

豊かな自然環境を求めて移住したものの、その自然の厳しさに直面して戸惑うケースは少なくありません。

 

国土交通省『過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査』によると、令和6年4月時点、調査の対象となった過疎地域は、7万8,485集落、集落人口は1,432万9,040人、1集落当たりの平均人口は約185人。全集落のうち、住民の半数以上が65歳以上である集落の割合は40.2%、75歳以上である集落の割合は6.5%と、高齢化が顕著です。一方で、対象地域の集落で、平成31年以降に転入者がいる集落は42.8%(3万3,575集落)、さらに転入した世帯のうち高校生以下の子どもがいる世帯がある集落は20.4%(1万6,025集落)。この中には佐藤さんのように、都会からの転入者も多くいるでしょう。

 

このような過疎地域における日常生活の課題として、「除雪など冬期間の生活確保」が挙げられます。かつては地域住民が協力して行っていた除雪作業も、集落の高齢化に伴い、困難になっています。佐藤さんのような若い移住者(「若者」といっても30代ですが、過疎地では貴重な若手です)には、自分の家のことだけでなく、地域全体の除雪や、一人暮らしの高齢者宅の手助けといった期待が寄せられることもあります。

 

もちろん、田舎暮らしにはメリットもあります。子どもたちが自然の中で感性を育めることや、(閉鎖的なコミュニティが問題点としてあげられることもありますが)地域コミュニティの温かさは都市部では得がたい財産です。

 

しかし、どのような場所であっても、メリットもあればデメリットはあるもの。佐藤さんが移住したような地域であれば、都市部のような利便性を手放し、自然の猛威と付き合っていく覚悟が必要でしょう。「雪かき」は単なる作業ではなく、そこで生きるための「コスト」の一部といえます。

 

憧れだけで移住を決めるのではなく、その地域が抱えるリスクや、季節ごとの生活の変化を具体的にシミュレーションすること。そして、不便さや厳しさも含めて楽しむ心の余裕を持つことが、地方移住を成功させる鍵となりそうです。

 

[参考資料]

国土交通省『過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査』(令和7年3月)