(※写真はイメージです/PIXTA)
「ようやく報われた」持ち株の上場で手にした1億円
「証券口座の残高が9桁になっているのを見た当時は、本当に現実なのかと何度も画面を見直しました。創業期からの深夜残業や安月給に耐えてきた苦労が、ようやく報われたと思ったのに……」
都内のITベンチャー企業に勤める舞浮さん(仮名・34歳)は、20代の入社時から毎月従業員持株会で自社株を買い続けてきました。生活費を切り詰め、会社の成長を信じて新卒から働き続けたといいます。
会社の業績は順調に伸び、数年後に念願の株式上場を果たします。初値は公開価格を大きく上回り、舞浮さんが保有していた株式の評価額は一気に1億円を突破しました。上場から半年間のロックアップ(売却禁止)期間を経て、舞浮さんはついに株式の大部分を売却し、巨額の現金を銀行の口座に移しました。
これまで節約ばかりの生活をしていた舞浮さんにとって、通帳に印字された数字は、これから遊んで暮らせると思わせるのに十分なものでした。
散財生活と翌春に届いた納税通知で一気に転落
「これからは自分の好きなように生きようと、完全に金銭感覚が狂っていました。翌春に税金を払わなければいけないことなど頭から抜け落ちていて、手元の1億円はすべて自由に使っていいものだと錯覚していたんです」
大金を得た舞浮さんは、節約の反動から一気に浪費へと走ります。家賃30万円の港区のタワーマンションに引っ越し、1,500万円の外車を現金で購入しました。夜な夜な港区の繁華街へ繰り出しては友人にご馳走し、高級時計や服を次々と買い集める毎日を送ります。
しかし、その生活は長くは続きませんでした。翌年の春、確定申告の時期が近づいたころに舞浮さんは青ざめます。株式の売却益には約20%の税金がかかりますが、舞浮さんの手元からは税金が一切天引きされていなかったのです。
持株会から個人の口座へ株式を移す際、会社からは「税金が自動で引かれる『特定口座』にしたほうがいい」と説明を受けていました。ただ、舞浮さんはネットの情報を鵜呑みにし、「『一般口座』を選んで自分で確定申告をすれば、色々と節税できるかもしれない」という考えから、あえて一般口座での払い出しを選択してしまっていたのです。
いざ1億円という大金を前にすると、手元に入った現金をすべて自分の資産だと思い込み、「税金はあとで自分で払えばいい」という考えはすっかり頭から抜け落ちました。当然、ごまかしなど一切通用しない約2,000万円という税金を納付しなければなりません。数千万円の浪費に加えてこの税金が引かれたことで、手元の残高は想定以上に激減。
「これでは一生遊んで暮らすことなんて到底できないと、急に現実を突きつけられて恐ろしくなりました」
焦った舞浮さんは納税資金を捻出するため、購入したばかりの車を半値以下で手放し、時計も買取店へ持ち込むことに。一攫千金で優雅な生活を送るはずが、現在は元の会社で働きながら家賃の安いアパートへ移り、後悔に苛まれながら過ごしています。
突然の富裕層入りが招いた「税金の落とし穴」
株式会社野村総合研究所が2025年に発表した推計によると、純金融資産1億円以上を保有する富裕層および超富裕層は合計で約165.3万世帯にのぼります。近年はスタートアップ企業の上場や自社株の成長によって、舞浮さんのように若くして突然大きな資産を手にするケースも珍しくないと考えられます。
また、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によれば、単身世帯の金融資産の平均保有額は919万円であり、そのうち有価証券は349万円を占めています。投資による資産形成が一般的になる一方で、利益に対する課税の仕組みを正しく理解していないと、思いがけない落とし穴にはまる可能性があります。
とくに給与天引きで税金を納めることに慣れている会社員の場合、手にした巨額の利益から自分で税金を計算して手元に残しておくという意識が希薄になりがちです。
資産を大きく増やすことと同じくらい、正しい金融知識や税金のルールを身につけることが、身を滅ぼさないための重要な防衛策になると推測できます。
[参考資料]
株式会社野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層の世帯数と純金融資産総額の推計(2025年)」
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」