(※写真はイメージです/PIXTA)
憧れの田舎暮らしだったが…終わりのない雪かきに衝撃
「正直、甘く見ていました。雪国育ちの妻が『冬は大変だよ』と何度も言っていたのに、僕は『たまにスノボーに行くときのあの銀世界で暮らすなんて、ロマンチックじゃないか』くらいに思っていたんです」
そう語るのは、都内の専門商社から、妻の実家がある東北地方の山間部へUターン移住をした佐藤健二さん(36歳・仮名)です。
東京生まれ、東京育ちの佐藤さんは、当時の年収680万円ほど。特に不自由のない暮らしをしていましたが、「もっとのんびりしたところで、のびのびと子育てができたら」と考えていたといいます。そんな思いを実現させるのは、上の子が小学校に上がる前がラストチャンス。いろいろと思いを巡らせ、義実家のある町に移住することを決めたそうです。
「妻の実家の近くであれば、子育ても楽になるでしょうし、妻も納得するだろう。安易な考えです。ちらっと言ってみたら妻は乗り気になってくれて、トントン拍子で事は進んでいきました」
移住に伴い、地元の建材メーカーに転職。年収は450万円ほどに下がりましたが、妻の実家の敷地内に家を建てたため住居費はかからず、生活水準は維持できる計算でした。移住先は過疎が問題となっている地域でしたが、佐藤さんにとっては理想郷。庭で野菜を育て、休日は近くの川で釣りをしたり、近くでキャンプをしたり。「本当に来てよかった」と家族で笑い合っていたといいます。
しかし、初めての冬が到来し、事態は一変しました。
「12月の終わり頃から雪が降り始め、正月が明けると一気に積雪量が増えました。特に降雪が多かったのは2月の上旬くらいだったかな。ある夜、天気予報で『強烈な寒波』が報じられたんです。そしたら妻が『明日は5時起きだわ』と」
一晩で80センチ近い積雪。家の前の道路も、庭も、すべてが白い壁に埋め尽くされていました。朝の5時から除雪を開始しますが、雪をかいてもかいても、一向に雪が減った気がしません。
「一番きついのが、除雪車が通ったあとに残していく『雪の塊』です。道路の雪を片側に寄せていくんですけど、除雪車は必ずうちの右手からやってきて、うちのあるほうに雪をよけていく。家の入り口に氷のように硬い雪の壁ができて、これを崩すのが重労働。腰は砕けそうだし、汗だくでメガネは曇るし、手先の感覚はなくなってくる。泣きそうでした」
2時間近く格闘しても車を出せるようになるには程遠く……。そんなとき、家から妻が顔を出しました。「今日、学校休みだって。臨時休校」。その瞬間、佐藤さんの中で何かが切れました。「俺、会社休むわ……」。無理をして車を出したとしても、帰ってこられる保証はないと判断したといいます。