老後の安心を求めて、戸建てからマンションへの住み替えを検討する人は少なくありません。しかし、安易な「ダウンサイジング」には、大切な老後資金を大きく目減りさせるリスクが潜んでいます。なぜ住み替えが生活を圧迫する結果を招いてしまうのか。ある男性のケースをみていきます。
「家は売るな!」49歳長男の叫び届かず…住み替え失敗で「老後資金2,000万円」が蒸発、「年金月16万円」75歳父の悔恨 (※写真はイメージです/PIXTA)

住み替えで「老後資金」を失わないために

高齢になってからの住み替えには、リスクが伴うことがあります。

 

国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査報告書』によると、中古マンション(集合住宅)購入者のうち、住み替え前に持ち家だった人は23.2%でした。中古マンションに住み替える人の4~5人に1人は、持ち家からの住み替えという計算になります。

 

また、中古マンション(集合住宅)の二次取得者(2回目以上の住宅取得者)における世帯主の平均年齢は58.7歳です。初めての住宅購入である一次取得者の平均年齢43.7歳よりだいぶ高く、健二さんのように高齢者による住み替えも多いことがうかがえます。そして、中古マンション二次取得者の購入資金総額は平均2,892万円であり、健二さんが購入した中古マンションは、ちょうど平均値に近い価格といえます。

 

中古マンションに住み替えをした人のなかには、健二さんのように、かつての「家族のための家」が「広すぎて住みにくい家」へと変化し、ダウンサイジングを検討した結果である人も多いでしょう。しかし、資金計画には慎重さが求められます。

 

同調査における中古マンション購入資金の内訳を見ると、自己資金の比率は68.2%と高い傾向にあります。健二さんのように、自宅の売却代金(「既往住宅の売却代金」)を当てにするケースも多いですが、ここに落とし穴があります。

 

日本の不動産市場、特に木造戸建ては、築20年を超えると建物価値がほとんど評価されないケースが一般的です。売り手が「愛着があるから」「リフォームしたから」と高く見積もっても、市場価格はシビアです。結果として、売却額が購入・転居費用を下回り、不足分を老後資金(預貯金)から補填することになります。

 

また、マンション特有のコストも見落とせません。管理費や修繕積立金は、築年数が経つほど値上がりする傾向にあります。年金収入のみの生活において、毎月数万円の固定費増加は致命的です。「資産の組み換え」のつもりが「資産の目減り」を招かないよう、売却査定は厳しめに見積もり、ランニングコストを含めた長期的な収支シミュレーションが不可欠なのです。

 

[参考資料]

国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査報告書』