昨今のアウトドアブームを受け、自分だけの山を持ちたいと考える人が増えています。しかし土地代の安さだけで安易に手を出すのは危険かもしれません。今回は、購入直前で断念した男性の事例をみていきます。
よし、山を買おう!定年直前にアウトドアに目覚めた「退職金2,200万円」60歳夫、「150万円なんて安いな」と意気揚々も、土壇場で断念したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

憧れだけでは済まされない「山主」の重い責任

佐藤さんのように、昨今のキャンプブームや「ソロキャンプ」の流行を受け、安価な山林購入に関心を持つ人は少なくありません。

 

実際に、山林の取引価格は一般の宅地に比べて極めて低水準です。国土交通省の『土地保有・動態調査』によると、個人の土地取引において山林が含まれるケースも見られますが、取引価格自体は場所によって数十万円から数百万円と、手が出しやすい価格帯のものが市場に多く出回っています。

 

しかし佐藤さんが直面したように、購入後の維持管理こそが最大のハードルとなります。まず、法的責任の問題です。民法第717条(土地工作物責任)では、土地の工作物(樹木を含む)の設置や保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合、その占有者または所有者が賠償責任を負うと定められています。

 

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

第七百十七条

土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。

 

つまり、自分の山から木が倒れて隣家を壊したり、土砂崩れで道路を塞いだりした場合、所有者は損害賠償を請求されるリスクがあるのです。自然のまま放置しておけばよいというわけではなく、適切な管理(間伐、下草刈りなど)が求められ、これらを専門業者に委託すれば、購入価格を上回る維持費がかかり続けることも珍しくありません。

 

また、一度購入した山林は、手放したくても買い手がつかないケースが多く、いわゆる「負動産」化しやすい資産でもあります。「安いから」という理由だけで安易に山林を購入することは、将来にわたる重い負債を背負い込むことになりかねません。

 

購入価格だけでなく、インフラ整備費、維持管理費、そして法的リスクまでを含めたトータルコストでの冷静な判断が求められます。

 

[参考資料]

国土交通省『土地保有・動態調査』

e-Gov 民法