老後の安心のために築いた資産が、逆に現在の生活を窮屈にしてしまうことがあります。十分な蓄えがあるにもかかわらず、将来への過剰な不安から「使わないこと」が目的化してしまうケースは少なくありません。ある元部長の極端な節約生活の実態を通して、後悔しないための老後のお金との向き合い方について解説します。
「すまん、暖房消していいか?」月600円をケチる〈退職金3,000万円〉〈年金月26万円〉の66歳元部長、預金通帳に残された「衝撃の残高」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「死ぬときに一番金持ち」にならないために

田中さんのように、十分な資産を持ちながら将来不安から支出を極端に抑制してしまうケースは珍しいことではありません。

 

総務省統計局『家計調査 家計支出編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯において、実収入から非消費支出(税金・社会保険料など)を引いた可処分所得は平均で22万2,462円。これに対し、消費支出は25万6,521円となっており、毎月3万5,000円弱を取り崩す必要がある。これが平均的な老後の姿です。

 

田中さんの場合、年金の手取りは月22万円ほどと考えられます。平均的な暮らしを想定すると、収入と支出はトントンといったところ。そのなかで、5,000万円近い資産があることを踏まえれば、インフレリスクを考慮しても、月600円の暖房費を削って健康や快適さを犠牲にする合理性は低いと言わざるを得ません。インフレは確かに資産の実質価値を目減りさせますが、過度な節約は「現在の生活の質(QOL)」を確実に低下させます。

 

通帳の数字が増えることで得られる安心感は否定するものではありませんが、それによって夫婦仲が険悪になるのは本末転倒です。

 

米コンサルティング会社CEOのビル・パーキンスの著書『DIE WITH ZERO』というベストセラーがありますが、使いきれないほどのお金を抱えてこの世を去ることは、ある意味で人生の損失ともいえます。

 

・体力や気力があるうちに楽しむ

・適正な予算の範囲内でお金を使う

・過度にリスクを怖がらない

 

「死ぬ時が一番金持ちだった」ということにならないよう、数字を守ることよりも、残された時間をどう豊かに過ごすかに目を向けることが、真の「勝ち組」の老後といえるでしょう。

 

[参考資料]

総務省統計局『家計調査 家計支出編 2024年平均』