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認知症で「資産凍結」…家族が打てる事前の対策とは
佐藤さんの事例は、決して特別なものではありません。高齢化が進む日本において、認知症による資産凍結のリスクは誰もが直面しうる問題です。
内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると推計されています。認知症により判断能力が低下すると、原則として預金の引き出しは困難になります。 解決策として「成年後見制度」がありますが、手続きに数ヵ月を要し、専門家への報酬等のコストも発生するため、緊急時の対応としてはハードルが高いのが現実です。
しかし、「認知症になったら絶対に引き出せない」と諦めるのは早計かもしれません。全国銀行協会は2020年に指針を示し、「まずは窓口で相談を」と呼びかけています。戸籍謄本などで親族関係を証明し、入院費や介護費の請求書があれば、本人の生活費として引き出しに応じてもらえるケースがあるのです。 以前は対応が分かれていましたが、現在は柔軟な対応が期待できます。ただし、これはあくまで緊急対応であり、継続的な利用にはやはり後見制度などが推奨されます。
だからこそ重要になるのが、元気なうちに行う「事前準備」です。大手金融機関では、以下の手続きを推奨しています。
▼代理人キャッシュカードの作成
生計を同一にする親族などが利用できるカードを発行します。これにより、代理人がATMで現金を引き出すことが可能になります。ただし、1日あたりの引き出し限度額(通常50万円程度など)の制限があります。
▼代理人指名手続(予約型代理人サービス等)
あらかじめ将来の代理人を指名して銀行に届け出ておく制度です。これを行っておくことで、本人が認知症などで手続きできなくなった際、指名された代理人が窓口で、ATMの限度額を超える金額の引き出しや定期預金の解約などを行えるようになります。
また、銀行手続きだけでなく、保険での備えも有効です。「指定代理請求特約」を付加した保険であれば、認知症診断時に家族が保険金を請求でき、当面の介護費用に充てることで、子どもへの金銭的負担を回避できます。
親とお金の話をするのは気が引けるかもしれません。しかし、事前に対策を講じておけば、結果として親自身の生活と尊厳を守ることにつながります。
「こんなことなら、母が元気なうちにもっと話し合っておくべきでした。結局、今は家庭裁判所に『法定後見制度』の申し立て手続きを進めていますが、診断書や財産目録などの書類集めだけで一苦労です」
[参考資料]
内閣府『令和6年版高齢社会白書』