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「2,000万円あるから大丈夫」気丈だった母の通帳残高が…
都内のメーカーに勤務する佐藤健二さん(53歳・仮名)。先日、82歳で亡くなった母・ヨシコさん(仮名)の四十九日法要を終え、実家の整理に取り掛かったばかりだといいます。
地方都市にある築55年の実家で、ヨシコさんは長年一人暮らしをしていました。父は10年前に他界。以来、月10万円ほどの年金と、父が遺した預貯金で生活を切り盛りしていたそうです。
「母はしっかり者でした。『お父さんが残してくれたお金と、私がコツコツ貯めたへそくりで、貯金は2,000万円ほどある。介護が必要になっても、自分のお金で全部なんとかできるから、あなたたちには迷惑かけない』と口癖のように言っていました」
そんな気丈なヨシコさんの生活が一変したのは、昨年の冬。自宅の庭で転倒し、大腿骨を骨折したことがきっかけでした。入院を経て要介護3の認定を受け、そのまま市内の老人ホームへ入居することになったのです。
「施設に入るとき、母から『施設の費用はここから引き落とされるから』と言って、1冊の通帳を預かりました。それは年金の振込口座で、年金のほかにも十分すぎるお金が入っていました。このときは、『ずいぶんと、お金を貯めこんでいるもんだな』くらいしか、考えていませんでした」
そして先月、ヨシコさんは施設で静かに息を引き取りました。葬儀を終えた健二さんは、実家を訪れました。空き家となった実家をどうするか決める前に、まずは貴重品の整理をしなければなりません。
「母から預かっていた通帳のほかに、あるはずの通帳をまずは見つけないと、話は始まらないと思って……。母が大切なものをしまっておくところは、あらかた見当がついていました」
健二さんが向かったのは、和室にある仏壇です。予想通り、仏壇の裏側から古びた茶封筒が出てきました。中には数冊の通帳。印鑑は母がいつも「大事なものはここ」と決めていた洋服ダンスの引き出しからすぐに見つかりました。
相続の手続きを進めるためにも、まずは相続財産を明らかにしなければなりません。現金はこれですべてだろうか……そんなことを思いながら、茶封筒から一番新しい通帳を取り出し、中身を確認した健二さんは、我が目を疑いました。記帳されていた最終残高は、わずか「1,020円」。
(えっ、母さんが言っていた2,000万円は?)
桁を見間違えたのかと思って、何度も見返したという健二さん。しかし、何度見ても1,020円。震える手で茶封筒の中をさらに探ると、通帳の下から、見慣れない書類の束が出てきました。それは、複数のNPO法人や慈善団体からの「お礼状」と「領収書」でした。
「日付を見ると、父が亡くなった後、母が施設に入るまで、定期的にかなりの額が振り込まれていました。寄付先は、貧困家庭の子どもを支援する団体や、海外の医療支援団体などでした」
健二さんはそこでようやく、生前の父が「リタイアしたら世の中のために役に立ちたい」と熱心に語っていたことを思い出しました。父は志半ばで病に倒れましたが、母はその遺志を継ぎ、父の遺産と自分の貯金を、少しずつ寄付に回していたようです。
「母らしいと言えば母らしいですが……。せめてひと言、寄付のことを言ってくれていたら、慌てずに済んだのに」