離れて暮らす親を案じる人は多いもの。しかし、金銭的な備えはあっても、築年数の経った実家には、加齢による衰えと相まって、想像もしない危険が潜んでいるものです。ある父娘のケースから、高齢者を脅かす家庭内事故の実態をみていきます。
築55年の実家へ「年金月12万円・82歳父」を訪ねたが…45歳長女、トイレから聞こえてくるうめき声に恐怖。ドアの向こうで目撃した〈まさかの光景〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

身体的フレイルと家庭内事故のリスク

厚生労働省『人口動態統計』によると、2023年、不慮の事故による死亡者数は、65~79歳が5,010人、80歳以上が9,237人。これは交通事故よりも圧倒的に多い人数です。

 

特に築年数の古い戸建て住宅は、手すりがない、トイレが狭いなど、高齢者にとって過酷な環境といえます。今回のように、筋力が低下した(サルコペニア)高齢者が、トイレでバランスを崩して立ち上がれなくなったり、便座にハマって動けなくなったりするケースは決して珍しくありません。

 

智子さんが直面したのは、加齢に伴い心身の活力が低下する「フレイル(虚弱)」の現実でした。フレイルとは、筋力や認知機能などが低下して病気やストレスに対する抵抗力が弱まり、「健康な状態」と「要介護状態」のちょうど中間にあたる「虚弱な状態」のことです。

 

株式会社ニッスイが別居する60~70歳代の親をもつ全国の男女を対象に行った『親の健康と自身の健康意識に関する調査』によると、親の老いを感じている子世代は82.6%に上ります。親の健康状態で今後心配なこととして、「筋力・体力の低下」と回答した子世代は49.0%と最多。次いで「物忘れ・認知機能の低下」(45.4%)、「免疫力の低下」(34.4%)と続きました。そして12.2%が「親が転んだり、つまづいて怪我をしたことがある」と回答しています。

 

このような状況であるものの、同調査では“フレイル”の理解度は19.8%にとどまりました。「聞いたことはあるが意味は知らない」は21.4%で、58.8%は「知らない(聞いたこともない)」という結果が出ています。

 

高齢になり、意識がしっかりしていても、体は確実に衰えていくもの。たとえば、

 

・ペットボトルの蓋が開けにくい

・青信号の間に渡りきれない

・入浴やトイレに時間がかかるようになった

 

これらは身体機能低下の重要なサインです。本人は「まだ大丈夫」と思っていても、ある日突然、自分の体を支えきれなくなる瞬間が訪れる可能性が高いのです。

 

一方で、安田さんのケースのように、意識がはっきりしている親にとって、下の世話やトイレでの失敗を子どもに見られることは、精神的に深い傷を残します。親のプライドを傷つけないよう、「将来のため」という名目で、トイレや風呂場への手すりの設置や、見守りセンサーの導入など、住環境の整備を提案することが重要です。

 

[参考資料]

厚生労働省『人口動態統計』

株式会社ニッスイ『親の健康と自身の健康意識に関する調査』