高齢化が進む現代、社会とのつながりを失い、孤立感を深める高齢者の問題が深刻化しています。退職や死別をきっかけに、誰とも言葉を交わさない日々が日常となる現実――ある男性のエピソードから、高齢者の孤立の実態についてみていきます。
 「声の出し方さえ忘れそうになる」…〈年金月10万円〉市営団地暮らしの76歳男性、コンビニ店員の挨拶に感じた〈身に染みる温もり〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「困ったときに頼れる人がいない」…データに見る日本の高齢者の現状

田中さんのようなケースは、決して特別なものではありません。都市部を中心に、近所付き合いが希薄になり、孤立する高齢者の問題は深刻化しています。

 

内閣府『第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(令和2年度)』で高齢男性の日常のコミュニケーションについてみていくと、「人と直接会って話をする頻度」の問いに対して「ほとんど毎日」の回答が最も多く71.6%。一方で「ほとんどない」は8.9%でした。

 

また「同居の家族以外に頼れる人」を尋ねると、「別居の家族・親族」58.7%、「近所の人」14.4%、「友人」14.1%という回答の一方で、「頼れる人はいない」が20.3%と、5人に1人の水準でした。さらに「親しい友人有無」については、「同性の友人がいる」30.1%、「異性の友人がいる」2.6%、「同性・異性の両方の友人がいる」15.4%の一方で、「いずれもいない」が40.4%と最多でした。そして「社会活動への参加状況」については、「まったく参加したことがない」が34.4%と3人に1人以上の水準で、理由としては「健康上の理由/体力に自信がない」(28.4%)に続き、「時間的・精神的余裕がない」が25.4%と、多くを占めています。

 

男女別にみると男性のほうが社会的に孤立する傾向にあります。仕事が生活の中心であるケースが多い男性にとって、仕事でのつながりが途絶えると社会とのつながりも消滅するケースは珍しいことではありません。社会的孤立を防ぐためにも、地域に「居場所」を見つけることが重要です。自治体が運営する「通いの場」や、シルバー人材センターでの就労、ボランティア活動など、金銭的な負担が少なく参加できるコミュニティは各地に存在しています。小さな一歩が、社会からの孤立を避けることにつながるのです。

 

[参考資料]

内閣府『第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(令和2年度)』