仕事や家庭を失い、実家を頼る我が子。親として手を差し伸べるのは自然なことですが、その優しさが時として、子どもの社会復帰を阻む「落とし穴」になることがあります。ある父親が息子に下した非情ともとれる決断の背景をみていきます。
実家で暮らしたいなら…42歳出戻り息子、絶句。年金月18万円・68歳父が突きつけた、まるで赤の他人な「同居条件」 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職が「引きこもり」の引き金になる現実

佐藤さんの懸念は、決して杞憂ではありません。中高年の引きこもりの実態を見ると、「仕事の挫折」が入り口になるケースは珍しくありません。

 

内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、引きこもり状態にある人は、15~39歳で2.05%、40~64歳で2.02%おり、数にして約146万人と推計しています。

 

40~64歳の引きこもりについてみていくと、引きこもり状態になった理由(複数回答)として、最も多いのが「退職したこと」で37.3%。新型コロナの流行といった時期的な理由に続き、「病気」(17.3%)、「介護・看護を担うことになった」(11.5%)、「人間関係がうまくいかなくなった」(6.7%)と続き、「特に理由はない」(13.4%)と、理由なき引きこもりも一定数います。

 

また「あなたは今までに、社会生活や日常生活を円滑に送ることができなかった経験がありましたか」の問いに、「なかった」は45.7%と最も多く、「どちらかといえばなかった」を合わせると、72.7%に達します。これまで順調にいっていた人生、経験したことのない初めての挫折を前に引きこもりになってしまう……そのようなことも珍しくありません。

 

佐藤さんが次男の性格から、引きこもりになることを心配したのは、「挫折知らず」という一面もあったのかもしれません。

 

また、同調査では、ひきこもり状態になってからの期間として、男性の最多は「2~3年未満」で24.2%ですが、10年以上に及ぶケースも13.9%と、引きこもり状態の7人に1人の水準。引きこもりは、一度長期化すると脱出が極めて困難である一面もあるのです。

 

「疲れたから少し休みたい」という動機で実家に戻り、衣食住が保証された環境に身を置いた結果、休息のつもりが数年、十数年と続き、気付けば社会復帰のタイミングを完全に逸してしまう――決して可能性はゼロではないのです。

 

「実の息子に賃貸契約……確かに『ちょっとやり過ぎではないのか』という友人もいました。しかし親としての懸念はしっかりと伝えることができたし、息子は必死に“次”を探している」

 

[参考資料]

内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』