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「自分はまだ戦える」大手部長の誤算
都内の有名私立大学を卒業後、新卒で大手メーカーに入社した山本隆司さん(59歳・仮名)。営業畑で着実に実績を積み上げ、50代前半で本社の部長職に昇進しました。現在の年収は約1,200万円。同世代の平均である725万円(厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』男性正社員50~59歳)を大きく上回り、世の中では「エリート」と呼ばれる存在です。
しかし、60歳定年の節目を前に、山本さんは焦りを感じていました。会社の規定では、定年後も「再雇用制度」を利用して働き続けることは可能です。しかし、正社員ではなく契約社員。当然、役職はなく、年収は現役時代の3分の1程度となる400万円台でした。
「35年以上も会社に尽くし、部長として組織を動かしてきた自負がある。それが年収400万円ですよ。プライドが許しませんでした」
山本さんは「自分の市場価値はもっと高いはずだ」と信じ、定年を待たずに転職活動を開始しました。これまでのマネジメント経験を武器にすれば、少なくとも年収800万円程度のオファーはあるだろう──。そんな自信は、活動開始からわずか1カ月で打ち砕かれます。
まず、転職エージェントに登録したものの、紹介される案件が極端に少なかったのです。紹介されたとしても、従業員数十名の中小企業や、まったく畑違いの業界ばかり。「自分のキャリアにふさわしい企業を」と、自ら求人サイトで大手企業の管理職候補に応募を繰り返しましたが、結果は惨憺たるものでした。
「書類選考でことごとく落ちるんです。『面接に進める』という連絡が来ない。120社近く応募しましたが、面接に至ったのはわずか3社。それも一次面接で不採用となりました」
不採用の理由は明確には知らされませんが、エージェントからは「山本さんのような『管理職経験』だけのシニアは余っています。現場で手を動かせるスキルか、特定の専門性がないと、この年収維持は不可能です」と辛辣な言葉を投げかけられました。
社内政治や部下の管理といった、社内だけで通用するスキル(ポータブルスキルではない能力)は、一歩外に出れば無価値同然だったのです。
「誰か俺を雇ってくれ……」
再雇用の申し込み期限が迫るなか、山本さんはパソコンの画面に向かい、悲痛な声を漏らしました。これまでの人生で味わったことのない、「社会から必要とされていない」という強烈な挫折感に襲われたといいます。