(※写真はイメージです/PIXTA)
「俺はもう働かない」2,100万円を手にした夫が直面した、妻との温度差
30代で転職した専門商社で、この春に60歳定年を迎えた佐藤隆司さん(60歳・仮名)。長年の激務を乗り越え、手にした退職金は2,100万円。住宅ローンも完済しており、貯蓄と合わせれば「老後資金2,000万円問題」も余裕で解決できるはず。
隆司さんは、再雇用制度を利用せず、完全にリタイアすることを決めていました。これまで仕事は激務を極めていました。海外との取引における時差対応や、深夜・早朝の緊急連絡への対応、休日も含む長時間労働……正直、へとへとです。さらに社内の人間関係も、精神的に限界でした。上と下に挟まれることが多かった隆司さん。身動きが取れず、苦しい思いをしたことは数知れず。もうやりきった、楽になりたい。そのような気持ちが強かったといいます。
会社からは定年の半年前に、再雇用の話をもらっていました。回答期限は定年の3カ月前。その期限が、いよいよこようとしていたタイミングで、「定年で仕事を辞めるつもりだ」と、妻の洋子さん(仮名・58歳)に打ち明けました。
「まずはきっと労ってくれる――そんなことを思っていましたが、妻の反応はまったく違ったものでした」
仕事を辞めるという隆司さんに対し、洋子さんの反応は驚くほど冷ややかなものでした。夕食時。箸を置き、まっすぐに隆司さんを見つめてこう言います。
「あなた、仕事をやめて何をするの?」
隆司さんは言葉を失いました。洋子さんの指摘は、経済的な問題だけではありませんでした。確かに2,100万円は大金ですが、人生100年時代と言われる今、夫婦二人があと30年近く生きるとすれば、年間で使える余裕資金はそれほど多くありません。何より洋子さんが懸念していたのは、仕事人間だった夫が「やることのない毎日をダラダラ過ごすこと」でした。
「仕事を辞めて、何かやりたいことはあるの? 一日中、家にいてテレビを見ているだけというのは辞めて。ずっと、ただいられるのは迷惑なの」
まさに青天の霹靂です。「まだ働けというのか!」と声を荒らげそうになりましたが、洋子さんの指摘はあまりに現実的でした。趣味といえる趣味もない隆司さん。仕事がなければ社会とのつなががなくなり、家の中に閉じこもることは確実です。それは妻にとって「巨大な粗大ゴミ」と同様。そのような事実を、この時初めて理解したのです。