「薬を飲んでくれない」「管理ができていない」。親のこうした変化に直面し、どう対応すべきか悩む家族は多いものです。実はその態度の裏には、単なる「わがまま」ではない、高齢者特有の切実なSOSが隠されていることがあります。ある親子のケースを見ていきます。
もう、イヤ!75歳母、処方された薬を断固拒否。実家の〈お薬カレンダー〉の異変に45歳娘の焦り (※写真はイメージです/PIXTA)

服薬拒否は「わがまま」ではない。心身からのSOS

高齢者が薬を拒む背景には、単なる「わがまま」ではなく、心身の変化に伴う切実な理由が存在します。理由は大きく分けて2つあります。まずは認知症の症状や心理的な要因によるもの。

 

認知機能の低下により、自分が病気であるという認識(病識)が薄れ、薬の必要性が理解できなくなることがあります。また、被害妄想から「毒を盛られる」と不信感を抱いたり、薬を「異物」と認識して吐き出したりするケースも少なくありません。良子さんのように過去の副作用の経験や「薬を飲むと具合が悪くなる」という実感もまた、服薬拒否に繋がりやすいものです。

 

さらに高齢者ならではの身体的要因もあります。加齢で飲み込む力(嚥下機能)が衰え、むせる恐怖から飲めなくなることがあります。また、代謝機能の低下で副作用が出やすくなることも。もしかしたら、良子さんの副作用も、加齢によるものかもしれません。

 

服薬拒否に伴い心配されるのが、飲まないことで悪化する病気です。薬を飲まないことで病状が安定しないと、医師は他の薬を追加するなど、悪循環に陥る場合も考えられます。

 

厚生労働省の資料によると、高齢者が病院から処方される常用薬は「1~2種類」が31%、「3~4種類」が26%。年齢とともにその数は増える傾向にあります。また服薬の管理については、「すべて自分で管理している」が88.9%。また日ごろの服薬生活に関する不安や心配について聞いたところ、最も多かったのが「不安や心配はない」で55%でした。逆に言えば、4割強の高齢者が、日常的に薬を飲む生活に何らかの不安や心配を抱いていることになります。

 

服薬拒否に対して、無理強いはNG。まずは拒否の理由にしっかりと耳を傾けることが重要です。美咲さんはこう語ります。

 

「薬への拒否感から、医者に対しても不信感をもってしまっていることを、かかりつけ医に正直に相談をしてみました。どうやらよくあることらしく、お医者さんも親身に聞いてくださって。今度、一緒に病院に行って、薬に対する不安や心配にきちんと寄り添っていきたいと思います」

 

[参考資料]

厚生労働省『高齢者の服薬に関する現状と意識』