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妻の許可なく、1万円もおろせません…定年夫の悲鳴
大手メーカーに勤めている田中浩一さん(仮名・60歳)。今年、定年を迎えたのを機に契約社員になったといいます。定年前は管理職として多くの部下を束ねていましたが「上司風を少しでも吹かせたものなら、一気に老害扱いですよ」と、職場の人間関係にはとにかく気を遣っている様子です。
「まあ、私はあまり上司面したことがないので、大丈夫だと思いますけど」と語る田中さん。その謙虚さの背景には、月3万円の小遣いという事情がありました。
「結婚した当初から、家計は妻が管理していました。それが当たり前だと思っていたし、まわりの同僚もお小遣い制でしたので、特に違和感はなかったです。キャッシュカードもクレジットカードも妻が管理しているので、妻の許可なしに1円も下ろせません。『今日は飲みにいくぞ!』なんて、威勢のいいことは言ったこともないですね」
家の財布をしっかり握っていたのは、専業主婦の妻・由美子さん(58歳・仮名)。田中さんには、すでに独立した2人の子どももいます。
「若いころは子どもの教育費もかかりましたし、ローンの返済もある。役割分担として、私は仕事を、妻は家庭をと……何も疑問はありませんでした。しかし50代になり、子どもが独立して教育費の負担がなくなり、住宅ローンの返済が終わっても、私の小遣いは3万円のまま。年収が上がっても、昇進しても、です」
50代、大手企業の管理職。年収は定年間際で1,020万円ほどと、平均をはるかに超えていましたが、小遣いは月3万円……。
「ほんと、みじめですよ。服は妻が買ってきた量販店のもの。趣味らしい趣味もないので散財することもありませんが、どうやら妻は友だちと食事に行ったりと、毎日を謳歌しているみたい。何のために働いているのか、わからなくなるときもありました」
浩一さんが不満を漏らそうものなら、由美子さんは「誰のおかげで優雅な生活ができていると思っているの」「昔、子育てがどれだけ大変だったか忘れたの」と、浩一さんを言いくるめてきたそうです。浩一さんは「家族のため」と自分に言い聞かせ、その不公平感を飲み込んできました。
しかし定年前に、その不満はついに限界に達します。きっかけは「退職金」でした。浩一さんには約2,300万円の退職金が支給される予定でしたが、由美子さんは当然のように「老後のためにも退職金はすべて私が管理するわ」と宣言したのです。
「その言葉を聞いたとき、プツンと何かが切れました。これまで頑張ってきた私に対して、『ご苦労様』のひと言もないのかと。いつの間にか、『退職金は1円も渡さない。俺が管理する』と妻に言っていました」
浩一さんは退職金の振込口座を変更。こうして田中家には、妻が管理する口座と、夫が管理する口座、2つの口座が存在することになりました。
「別に無駄使いするつもりはない。ただ経済的に、もう少し自由になりたい。それだけなんです」