定年退職は、人生の大きな節目。目前に迫ると、誰もが老後の生活資金について強く考え始めるでしょう。しかし、夫婦間でお互いの資産状況を詳細に把握している家庭は、意外と少ないのが現実です。長年、家計管理を「任せきり」にしていませんか? ある男性のケースについてみていきます。
腰が抜けました…定年目前の59歳夫。〈小遣い月3万円〉〈毎日弁当持参〉で頑張ってきたが、妻の通帳残高に仰天 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年を1年後に控え、初めて向き合う「家計の現実」

定年退職まで残り1年。東京都内でメーカーに勤務する田中誠さん(59歳・仮名)は、ここのところ落ち着かない日々を過ごしていました。

 

「いわゆる『老後2,000万円問題』なんて言葉もありましたし、自分たちは大丈夫だろうか、と。退職金や年金の見込額をシミュレーションし始めたのがきっかけで、本格的に我が家の「今」を知る必要があるなと思いました」

 

これまで家計管理は、ひとつ年下の妻・美佐子さん(58歳・仮名)に一切を任せてきたという誠さん。自身は毎月の小遣い3万円を厳守し、昼食は妻が毎朝作ってくれる弁当を持参し、コロナ禍以降、飲み会が復活しても、極力断り、自分なりに節約に励んできた自負がありました。

 

「子ども2人も独立しましたし、住宅ローンもあと少し。妻もパートに出てくれています。それでも、このご時世。どこも大変そうじゃないですか。働けるうちは働く……定年後の生活を、漠然と想像していましたね」

 

ある週末、誠さんは意を決して妻に「うちの貯金、全部でいくらあるか教えてほしい」と切り出しました。妻の美佐子さんは「あら、やっと興味持ってくれたの」と笑いながら、リビングの棚から数冊の通帳と、ネットバンクのログイン画面を操作したタブレット端末を持ってきたといいます。

 

「まずは私名義の給与振込口座と、そこから自動積立されている定期預金の通帳。次に、夫婦の共有口座。最後に、妻のパート代が振り込まれる口座。ここまで見て、合計で2,200万円ほどでした。正直、『こんなに貯めこんでいるんだ』と驚きました」

 

さらに美佐子さんは「あと、これもあるわよ」と、もう一冊、誠さんが見たこともない銀行の通帳と、別証券会社のログイン画面を見せたのです。

 

「目を疑いました。妻個人の名義になっていたその口座残高を見て、思わず『え……!? ゼロがひとつ多くないか?』と声が出ました。腰が抜けるというのは、まさにあのこと」

 

そこに記載されていた3,000万円ほどの金額。「正直にいうと、一瞬、妻が何か危ないことでもしているんじゃないかと疑いました」と誠さん。しかし美佐子さんは、20年以上続けているパートの給与の半分は、貯蓄に回すのではなく、投資に回してきたといいます。

 

「妻は、インデックスファンドを中心に、地道に投資を続けていました。『最初から、あなたとの老後を見据えて、コツコツと』と。本当にすごいと思いました。すると妻は『あなたが小遣いにも、お弁当にも、文句言わずに頑張ってくれたから、私も頑張ろうと続けてきた』と。本当、もう頭が上がりません」