離れて暮らす親の「大丈夫」という言葉。それをどこまで信じていますか? 子どもに心配をかけたくないという親心は、時に深刻な問題の兆候を覆い隠してしまうことも。高齢化社会において、親が発する日々の小さな「違和感」は、見過ごしてはならない重要なサインかもしれません。
午後4時 「もう、食べたよ」…年金月10万円・82歳母の返事に違和感。実家の冷蔵庫を開けた58歳娘が〈絶句した光景〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

午後4時の「食べたよ」。そのひと言に隠されたサイン

都内で夫と暮らす田中恵美さん(仮名・58歳)。最近の心配事は、電車で1時間ほどの距離にある実家で1人暮らしをする母・芳子さん(82歳・仮名)のこと

 

「80を超えての1人暮らしですから、何かと心配になります。週に1度は顔を出すか、できないときは、電話で様子を聞くようにしていました。まあ心配している素振りをすると、『また年寄り扱いをして』と拗ねるような母ですから、あまり過度心配するのもよくないなと思っていたのですが……」

 

とにかく年の割に健康というのが芳子さんの取柄でしたが、最近、気になることがあったといいます。

 

「仕事の忙しいタイミングだったので、電話での確認が続いていました。その日は、午後4時ごろだったでしょうか。いつものように電話をしたんです。母はいつも通り「元気だよ」と答えました。 暑さの厳しいころで、食欲が落ちてないかなと心配だったので、『きちんと食べてる?』と聞いたら、『夜ご飯なら、今日もちゃんと食べたよ。大丈夫』と。強い違和感を覚えました」

 

午後4時。夜ご飯にはまだ早すぎます。さらに「何を食べたか」という問いに、芳子さんはうまく答えられなかったそうです。ここ数週間、食事内容が思い出せないようなやりとりが続いていました。胸騒ぎを覚えた恵美さんは、その週末、予定を変更して何とか実家を訪れたといいます。

 

「突然の訪問に母は『あら、急にどうしたの』と少し驚いた様子でした。でも、いつもと変わらぬ母の姿にホッとしました。しかし、そのあとでした。その日も暑い日で、お茶をもらおうと、冷蔵庫を開けたときにぎょっとしました」

 

冷蔵庫のなかはパンパンで、いつ買ったのかわからないスーパーの惣菜パックがいくつも押し込まれていました。パックの隅には黒ずんだ野菜。扉のポケットには、封の開いた賞味期限切れの牛乳。野菜室には、水分が抜けかけたきゅうりと、一部が変色し始めたキャベツが入っていたのです。 明らかに、まともな食事ができていない光景でした。

 

「母にどういうことなのか尋ねても、『え? もったいないから、少しずつ食べてるつもりだったんだけど。あら、これはいつのかしらね』と。母は几帳面で、100円ショップで収納グッズを買ってきて、冷蔵庫の中もキレイに整理整頓しているような人です。それなのに、冷蔵庫が無造作にパンパンになっていても、まったく気になっていないようで……」

 

恵美さんは、母が「食べたかどうか」の認識、そして「食べられるものかどうか」の判断が、曖昧になっていることに気づきました。あるいは、食事の準備や後片付け自体が億劫になり、「食べた気になっていた」だけなのかもしれません。