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メンタル不調で退職。制度を知らなかった焦りと後悔
田中健一さん(35歳・仮名)は半年前、メンタル不調が原因で前職を退職。仕事が重なり、業務過多になっていたといいます。
「いわゆるIT企業でシステムエンジニアをしていましたが、退職直前は連日深夜までの残業と休日出勤が続き、心身ともに限界でした。ある朝、布団から起き上がれなくなり、病院で『適応障害』と診断されました。上司に退職を告げるのが精一杯で、正直、その後の生活やお金のことはまったく考えられませんでした」
休職ではなく退職を選んだのは、どうしてなのでしょうか?
「会社に戻る気力が、どうしても湧かなかったんです。休職という選択肢も頭をよぎりましたが、当時の私には『辞める』ことしか考えられませんでした。とにかく、すべてから逃げ出したい一心でした」
退職を決めた時は、「とにかく休みたい、何も考えたくない」という気持ちが強かったという田中さん。退職後の生活を支える制度として「失業保険」や「傷病手当金」がありますが、田中さんは当時、そうした制度について調べる気力も余裕もなかったといいます。退職後の生活は、どうだったのでしょうか。
「最初の1〜2ヵ月は、ほとんど家から出られず、寝たきりに近い状態でした。当然、収入はゼロです。貯金を切り崩して生活していましたが、働けない焦りと、通帳の残高が減っていく不安で、かえって体調が悪化するような感覚さえありました」
療養に専念すべき時期に、お金の心配をしなくてはならなかったのは辛かったといいます。「早く次の仕事を探さないといけない」と思いつつも、体調は戻りませんでした。しかし、休んでいる間も家賃や生活費はかかり、まさに悪循環だったと振り返ります。
退職して3ヵ月ほど経つと、ようやく体調も上向きになりました。転職活動についてインターネットで調べていたところ、偶然「退職後にもらえるお金」といった記事を見つけ、そこで初めて『傷病手当金』という制度の存在を知ったといいます。しかし詳しく調べてみると、傷病手当金を受給するには条件があると知ります。特に、在職中に連続して3日間休む「待期期間」を満たしておく必要があったり、退職後も継続して給付を受けるための要件があったりします。しかし、田中さんの場合は、退職まで無理して出勤していたこともあり退職日までにその条件を満たしておらず、結果として、傷病手当金は受給できなかったといいます。
「病手当金がダメだと分かった後、今度は失業保険について調べました。幸い、体調は『働ける状態』まで回復してきていたので、すぐにハローワークへ行きました。そこで初めて知ったのですが、私のように適応障害などの『正当な理由がある自己都合退職』の場合、医師の意見書などを提出すれば『特定理由離職者』として扱われる可能性があるとのことでした。手続きを経て認定された結果、通常の自己都合退職では給付までに7日間の待期期間の後、さらに2ヵ月間の給付制限(支給されない期間)があるのですが、私の場合はその給付制限が免除され、待期期間満了後すぐに給付が始まりました。これは本当に助かりました」
編集部:もし、退職前からこれらの制度について詳しく知っていたら、「間違いなく、動き方が変わっていたと思う」と田中さん。知っているかどうかで、選択肢が大きく変わっていたと振り返ります。