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夫は大手メーカー勤務…「将来は安泰」のはずだった
田中陽子さん(50歳・仮名)は、大学卒業後に結婚して以来、25年間にわたり専業主婦として家庭を支えてきました。夫の明さん(53歳・仮名)は、国内でも有数の大手企業に勤続30年。2人の子供にも恵まれ、上の子は大学4年生、下の子も大学2年生と、教育費はかかるものの、将来設計に大きな不安はなかったといいます。
「夫は真面目な人で、ずっと仕事を頑張ってくれていました。役職にも就いていましたし、収入も安定していました。このまま定年まで勤め、退職金をもらって、夫婦2人で穏やかな老後を迎えるんだろうな、と思っていました」
住宅ローンに、子どもの教育費と、支出のピークを迎えていますが、それもあとわずか。これからは自分たちの老後を見据えてお金を貯めていかないと――そんなことを考えていた矢先のこと、明さんから突然「会社を辞めることになった」と告げられます。
「最初は『早期退職』と聞きました。業績があまり良くないという話は耳にしていましたが、まさか夫の身に降りかかるとは……。詳しく聞くと、希望退職プログラムという名の、実質的なリストラでした」
明さんの部署は事業再編の対象となり、多くの同僚とともに会社を去るか、遠方への転籍を迫られるかの選択だったといいます。明さんは、割増退職金が出るプログラムに応募することを決断しました。
「夫は『割増も出るし、次の仕事もまだ探せる年齢だ』と気丈に振る舞っていましたが、長年勤めた会社を去るショックは大きかったと思います」
しかし、現実の生活は待ってくれません。夫の退職により、毎月の定期収入は途絶えました。割増退職金は出たものの、住宅ローンはまだ10年近く残り、自分たちの老後を見据えた貯蓄も本格化させなければなりません。
さらに不安を大きくさせたのが、明さんの再就職。役職に就き、それなりに収入を得ていましたが、逆にそれが足枷となりなかなか「次」が決まりません。条件を下げるというのも選択肢のひとつですが、そうなると、収入は大幅減。思い描いていた生活設計を根本から見直さなければなりません。
「専業主婦になって四半世紀。『今さら働かなきゃいけないなんて……』と不安に思いましたが、そんなこと言っていられません」と陽子さん。しかし、25年というブランクの壁は厚く、50歳という年齢もネックになりました。
「ハローワークや求人サイトを見ても、私が応募できる仕事は限られていました。事務職を希望しても、パソコンスキルは必須。私が持っているのは、昔取った簿記の資格くらいです」
面接に落ち続ける日々が続き、陽子さん、どこか甘い考えを持っていた自分を恥じたといいます。そして社員の道は諦め、自宅近くのスーパーマーケットでの品出しとレジのパートに応募。すぐに採用となったといいます。
「何だかんだいって、世の中は人手不足なんですね……時給は1,100円。週5日、1日6時間勤務。これだけ働いて、手取りは月10万~11万円なんですね。夫が稼いできてくれた金額の大きさを痛感しました」