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「生活費が安い」は幻想? 移住して分かった誤算
大手メーカーで働き、60歳で定年を迎えた鈴木誠さん(60歳・仮名)。手にした退職金は約2,200万円。長年の夢だった、妻・洋子さん(58歳・仮名)との地方移住をついに実行に移しました。
「夫婦は2人とも、都会生まれ、都会育ちなもので、自然豊かな場所でゆっくりと暮らしてみたい、というのは夢でしたね。50歳を過ぎたあたりに妻に打ち明けたら賛成してくれて。それに、地方なら生活費も安く抑えられるだろうという期待もありました」
夫妻が選んだのは、山々に囲まれた景観の美しい北関東の町。都内のマンションを売却し、移住先では手頃な中古の一戸建てを購入しました。固定資産税も都内とは比べ物にならないほど安くなり、当初の計画は順調かに思えました。
しかし、移住してから徐々に実感としてわかったことがあります。
「移住して驚いたのは、住居費以外は必ずしも安くない、ということです。むしろ、都内にはたくさんのディスカウントストアがあるので、買い物するところを工夫したら生活費を抑えることができる。でも移住後は以前よりも出費が増えている項目もあって……」
最大の誤算は「車」でした。都内では駅近のマンションで車は所有しておらず、たまにレンタカーを借りる程度。しかし、移住先では最寄りのスーパーまで車で20分、総合病院へは30分以上かかります。公共交通機関はバスはあるものの、本数が多いとはいえず、結局、生活のために中古の普通車と軽自動車の計2台を購入することになりました。
「車の購入費用はもちろん、自動車税や保険料、車検代といった維持費が毎年かかります。ガソリン代も、どこへ行くにも車なので馬鹿になりません」
光熱費も予想外でした。移住先はプロパンガス地域。都市ガスに比べて料金が割高です。加えて、冬の寒さは都内の比ではありません。
「家の断熱性も都内のマンションほど高くなく、冬場の灯油代が想像以上にかかりました。水道光熱費全体では、都内にいたころの1.5倍近くになっている月もあります」
食費についても、「地元の新鮮な野菜が安く手に入る」というイメージとは異なる面がありました。
「確かに農家の直売所は安いですが、品揃えは限られます。結局、肉や魚、日用品を揃えるためには、車で遠くの大型スーパーまで行かなければならない。その時間とガソリン代を考えると、トータルコストは都内の生活と大差ない、というのが実感です」
先日、都内から友人の佐藤健一さん(60歳・仮名)が遊びに来た際、思わず本音を漏らしたといいます。
「佐藤には『退職金もあって、生活費も安くなって悠々自適かと思ったよ』と言われました。でも実情を話したら、『家は安くても、車が必須でガス代も高いんじゃ大変だな』と驚いていました。本当にその通りで……。退職金も、車の購入や家の細かな修繕で思ったより減りが早く、ちょっと不安ですね」