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星5つで、月額利用料も予算内…「理想の老人ホーム」のはずが
鈴木達也さん(55歳・仮名)は、都内で一人暮らしをする母・良子さん(82歳・仮名)の将来を案じ、老人ホームへの入所を検討し始めました。
「父が亡くなってから10年、母はひとり暮らしてきましたが、ここ1年ほどで急に足腰が弱くなって。口は達者で元気なのですが、万一、1人でいるときに転倒でもしたら……」
良子さん自身も、達也さんに迷惑をかけたくないという思いが強く、施設入所には前向きだったといいます。達也さんは仕事の合間を縫って、インターネットで施設探しを開始。そこで見つけたのが、自宅からも比較的通いやすい、介護付き有料老人ホームでした。
「ネットの口コミサイトでは軒並み星5つ。『スタッフが親切』『アットホームな雰囲気』『安心・安全』などと絶賛されていました。月額利用料も、母の年金(月20万円)と貯蓄で十分賄える範囲。しかも『即入居可』。ここなら間違いないと思いました」
実際に見学に行くと、印象は上々。清潔感のあるエントランス、日当たりの良い談話室、にこやかに挨拶してくるスタッフ。ここであれば母を預けても安心だと確信した達也さん。良子さんに見学に行った際の話をしたところ、「達也が勧めてくれる所なら安心」と二つ返事だったといいます。
入所に必要な手続きを済ませ、良子さんの新しい生活がスタート。達也さんも、ひとまず肩の荷が下りたと感じていました。しかし、その安心はわずか3日で終わります。早朝、良子さんから、達也さんのスマートフォンに電話がかかってきたのです。
「もう無理、ここから出して!」
電話口から聞こえてきたのは、母の泣き叫ぶ声でした。「もう嫌だ、帰りたい」と繰り返す母の様子に、達也さんはすぐに施設へと車を走らせました。施設に到着し、面会室で待っていた良子さんは、元気がないのは明らかでした。
「誰も話す人がいないの。だって介護を必要とする人ばかりで、そのなかに元気な私がいるんだもの。認知症の方も多いし……昨日なんて、ひと言もしゃべらなかったわ。スタッフの人たちもみな忙しそうで、話しかけられないし」
さらに、良子さんは「食事が口に合わない」と、愚痴がとまりません。そこで達也さんは老人ホーム選びを間違えたことに気づきます。このホームの入居対象者は自立(要介護認定を受けていない、日常生活を自立して送れる人)要介護から要介護5までと幅広く、認知症の人も受け入れています。実際は自立の人はほとんどおらず、また認知症の人への対応が素晴らしいと評判だったのです。スタッフは常に慌ただしく動き回っているのも、このような入居者が多く、対応に追われているためでしょう。食事も健康な良子さんには少々物足りなかったのかもしれません。
「ここにずっといるなんて、絶対耐えられない。連れて帰って」
あくまでも星5つの口コミは、要介護の家族をホームを預けている側からみたものばかり。入居者本人の満足を反映したものではなかったのです。