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「貯蓄」から「つながり」へ。幸福の尺度
野村さんのように、老後資金に不安を抱える人は少なくありません。金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』によると、二人以上世帯の70歳代で、老後の生活を「非常に不安」または「多少不安」と感じている人は、合計55.5%にものぼります。
多くの人が「貯蓄額=老後の安心」と考え、資産形成に励みます。実際に、同調査での70歳代(二人以上世帯)の金融資産保有額は、平均で1,997万円、中央値でも800万円となっており、野村さんの当初の2,000万円という貯蓄は、決して少なくない額でした。
しかし、野村さんのケースのように、住宅修繕、病気、家族の支援など、老後には想定外の出費がつきものです。計画通りに資金を維持できるとは限りません。
また内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』によると、「生きがいを感じている(十分に感じていると、多少感じているの合計)」と回答したのは73.2%。経済的な暮らし向きでみると、家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている人は「生きがいを感じている」が85.1%と高く、家計が苦しく、非常に心配である人は「生きがいを感じていない」(48.1%)が高い傾向にあります。つまり、高齢者が生きがいを感じるためには、経済的な余裕は無関係ではないのです。
一方で、「生きがいを感じるとき」(複数回答)を聞いたところ、「孫など家族との団らんのとき」(55.3%)、「おいしいものを食べているとき」(54.8%)、「趣味やスポーツに熱中しているとき」(53.5%)、「友人や知人と食事、雑談しているとき」(52.6%)が過半数超え。つまり、経済的な基盤はもちろん重要ですが、それだけが老後の幸福度を決定づけるわけではない、といえるでしょう。野村さんは、皮肉にも「貯金」という安心材料を失ったことで、お金では買えない「人とのつながり」や「日々の充実感」を得ることができました。
もちろん野村さんがいうように、最低限、暮らしていけるだけのお金があることは大前提。ただそれ以上のお金があったとしても、幸せかどうかは人それぞれ。口座残高を眺めるだけでなく、自分にとって何が幸せか、しっかりと自問自答することが大切であることを、野村さんは教えてくれました。
[参考資料]
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』
内閣府『令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査』