老後の生活設計を考える際、年金や貯蓄は計画の柱となります。しかし、物価高などが続くと、「本当に足りるのか」という不安は常につきまといます。そうしたなかで、無意識に「いざとなれば子どもが助けてくれる」という期待を抱いていないでしょうか。現代において、「親の面倒」に対する価値観は変わりつつあります。法的な扶養義務の実態と、変わりゆく親子関係についてみていきましょう。
息子はエリートだから老後は安泰…年金想定月23万円・60歳夫婦、28歳息子から放たれた「まさかひと言」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

「親の面倒」は子の義務か? 変わりゆく親子関係と老後意識

健一さん夫婦のように、「子どもが老後の面倒を見てくれる」と期待を寄せる親世代がいます。そんな期待は現代において、どれほど現実的なのでしょうか。

 

内閣府『令和4年 高齢者の健康に関する調査』によると、介護が必要になったときに誰に頼みたいかの問いに対して、「ヘルパーなどの介護サービスの人」が最も多く46.8%。続いて「配偶者」30.6%。「子」は12.9%でした。

 

また株式会社AlbaLinkが30代以上の男女を対象に行った調査では、「老後の面倒は誰にみてほしいか」の問いに対して、トップは同じく「介護施設の職員」で60.0%。続いて「自分で何とかしたい」27.6%、「配偶者」14.8%。「子」は9.6%。また「世話になりたくない相手」として最も多かったのが「子」で44.4%でした。

 

あくまでも介護というシーンにおいてではあるものの、「子どもには頼れない」「子どもには頼りたくない」という人が多いようです。

 

しかし、「経済的に困窮したとき」と限定するとどうでしょう。総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、高齢者夫婦の場合、平均月3万~4万円ほど赤字になるとされています。

 

足りない分は貯蓄で賄う必要がありますが、もし今のようにインフレが続いたら……想定以上に貯蓄の取り崩しが多くなり、老後資金が枯渇することも考えられます。そうなると、多くの場合、頼れるのは「子ども」となるでしょう。

 

法律上、親子(直系血族)は互いに扶養する義務があります(民法877条)。しかし、これは多くの場合、扶養する側に余力がある範囲で、相手が最低限の生活(自活)ができるように援助する「生活扶助義務」と解されています。親が期待するような「裕福な老後」を保障するものではありません。

 

健一さん夫婦の事例のように、子どもが「婿養子」になることは法的に親子の縁を切るものではありませんが、物理的・心理的な距離が生まれ、親が期待していたようなサポートが得られにくくなる可能性は十分に考えられます。

 

「教育は、子どもの将来のための投資」であることは間違いありません。しかし、その「リターン」を自分たちの老後の安泰という形で期待することは、価値観が多様化し、個人の生き方が尊重される現代においては、見直す必要があるのかもしれません。

 

[参考資料]

内閣府『令和4年 高齢者の健康に関する調査』

株式会社AlbaLink『【老後の面倒は誰にみてほしい?】介護の担い手に関する意識調査』

総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』