高齢の親に老人ホームへの入居を提案したら、「冗談じゃない!」とまさかの激怒。「死ぬまでここにいる」と拒否され、子は狼狽……実は、親の「住み替え」に対する意識は、子が思う以上に固いものです。ある調査では親の7割が「住み替えない」と回答。なぜ、このギャップは生まれるのでしょうか。
冗談じゃない! 死ぬまでここにいる! 78歳父が絶叫。「老人ホーム入居」拒否に、52歳息子、狼狽 (※写真はイメージです/PIXTA)

★住み替えをめぐり、すれ違う親子の思惑​

「高齢の父が住み続けるには、実家は古い。だから、私たちが住むマンションの近くにある、シニア向けの住宅に移ったらどうかと提案しました」​

都内の大手メーカーに勤める田中良一さん(52歳・仮名)。埼玉県にある築45年の一戸建ての実家で1人暮らしを続ける父・和夫さん(78歳・仮名)に切り出しました。良一さんは月2回ほど様子を見に帰っていますが、来るたびに家の荒れが進んでいるように感じていたといいます。​

 

良一さんの提案に対して、和夫さんは​「冗談じゃない! この家は俺と母さんが苦労して建てた家だ。お前たちが育った家でもある。死ぬまでここにいるに決まってるだろうが!」と激怒。住み慣れた土地を離れるなど、まったく考えにはなかったようです。​当時の良一さんには、大学受験を控えた息子がいました。仕事のこと、家庭のことで精一杯で、これ以上父親のことは考える余裕はなかったといいます。

(もう少し年をとったら、父さんも考えを変えるかもしれない)​

 

お互いが「まだ大丈夫」「そのうち」と思っていた矢先、和夫さんは自宅の階段から転落。救急搬送されました。診断は、大腿骨骨折。幸い命に別状はなかったものの、高齢者のこの骨折は、そのまま寝たきりにつながるケースも少なくありません。​「退院後、あの家に1人で戻すわけにはいかない」​。リハビリ病院への転院、さらに退院後の住まいの確保――。和夫があれほど拒否していた、シニア向け施設や老人ホームのパンフレットを慌ててかき集めることになりました。

 

「仕事も繁忙期だし、子どもは受験だし……」​。多忙のなか、介護付き有料老人ホームへの入居を決め、今も和夫さんはそこで暮らしています。ただ、大した話し合いもせず、子の希望を優先して住まいを決めてしまったことに、申し訳なさが残っているといいます。

 

「父は本当に施設を気に入っているのか……本音を聞けていない気がするんです」