老後の生活設計を考える際、年金や貯蓄は計画の柱となります。しかし、物価高などが続くと、「本当に足りるのか」という不安は常につきまといます。そうしたなかで、無意識に「いざとなれば子どもが助けてくれる」という期待を抱いていないでしょうか。現代において、「親の面倒」に対する価値観は変わりつつあります。法的な扶養義務の実態と、変わりゆく親子関係についてみていきましょう。
息子はエリートだから老後は安泰…年金想定月23万円・60歳夫婦、28歳息子から放たれた「まさかひと言」に撃沈 (※写真はイメージです/PIXTA)

息子の成功は、私たちの老後の支え…淡い期待を抱いていた60歳夫婦

この春、角田健一さん(60歳・仮名)は勤め先を定年退職し、セカンドライフをスタートさせました。ひとり息子の翔太さん(28歳・仮名)は、就職を機に家を離れ、現在は同い年の妻・明子さん(60歳・仮名)と2人暮らしです。

 

5年後から受け取れる年金は、月23万円ほどになる見込みです。60歳定年で退職すると、年金を受け取るまでは5年ほど期間があること、また年金が受け取れるようになっても十分とは言い難い額であること。それらをすべて考慮して、コツコツと資産形成に励んできたのです。

 

預貯金1,800万円。さらに健一さんの退職金が1,700万円。住宅ローンの返済は終えており、これだけの貯蓄があれば、60歳で仕事をやめても大丈夫――そう思い、定年で会社を離れる決意をしたといいます。

 

とはいえ、不安がないわけがありません。昨今続く、物価高騰。このままモノの値段が上がり続けたら、どんなに貯蓄があっても、老後は立ちゆかなくなるかもしれない……そんな不安を吹き飛ばしてくれる存在、それが翔太さんでした。

 

角田さん夫婦は、「教育こそ投資」をモットーに、翔太さんへの教育については、惜しみなくお金を使ってきました。そのかいあって、翔太さんは中学受験で難関校に合格し、そこから一流私大にも合格。そして就職先は誰もが知る大手企業です。

 

あくまでもニュースで知る範囲ですが、社員の給与は業界内でもトップクラス(らしい)――「翔太くんはエリートコースを進んでいるから、(角田さん夫婦の)老後も安心ね」と周囲から羨ましがられることも、よくあるといいます。

 

「別に老後の面倒をみてもらおうとは思っていませんが……期待しないわけではないですよね」

 

そう笑う健一さん。余裕の表情には、息子・翔太さんの存在があることが明らかでした。しかし、そんな期待が崩れ落ちる事態が起きたといいます。それは、翔太さんからの結婚報告。大喜びの角田さん夫婦でしたが、続く言葉に愕然とします。

 

「俺、婿に入ることになった」

 

角田さん夫婦は、一瞬、何を言われたのか理解できなかったといいます。翔太さんの話では、相手の女性はひとり娘で、実家で商売をしているとのこと。将来的に家業を継ぐことも視野に入れ、翔太さんに婿養子として入ってほしい、というのが相手方の希望だというのです。

 

健一さんと明子さんは、言葉を失いました。「角田家」の跡取りがいなくなることへのショック。そしてそれ以上に、自分たちの「老後安泰」シナリオが、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていました。

 

「『私たちの老後はどうなるんだ?』なんて聞けるわけがありません。もちろん、婿に入ったからといって、縁が切れるわけでもありませんし、親子であることも変わりません。しかし、何かあったときでも頼りづらいというのが本音です」