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年金「月5万円増」を打ち消す「想定外の支出」という現実
厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』によると、年金受給者のうち、所得の100%が年金だという高齢者は43.4%。「所得の80~100%」は16.4%で、年金への依存がどれほど高いかが伺えます。
そんな高齢者の生活は厳しく、高齢者世帯の30.9%が「生活がやや苦しい」、28.0%が「生活が大変苦しい」と回答。約6割の高齢者が生活苦を感じています。
生活苦の要因のひとつが、昨今の物価高。2021年頃から始まり、2022年に顕著になり、いまなお続いています。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの混乱や、その後の世界的なインフレの波とされていますが、物価が上昇する分、それ以上に年金が増えるわけはなく、高齢者の生活を圧迫しているのです。
そのようななか、年金を繰下げて受給額を増やしたにもかかわらず、生活の余裕を実感できないケースは少なくありません。老後の生活設計において、「収入(年金)を増やす」ことばかりに目が行きがちですが、同時に「支出の増加リスク」にも目を向ける必要があるでしょう。
特に高齢期に増加が顕著となるのが医療費です。厚生労働省の資料によると、年齢階級別の1人当たり医療費の自己負担額(推計値)は、年齢が上がるにつれて高くなる傾向があります。たとえば60代前半では13.5万円だった自己負担額は、70代前半では20.3万円。10年で1.5倍になる計算です。また医療費の増加の先には、介護費も考慮しなければならないでしょう。
住居費(修繕費)も大きな負担となります。内閣府『令和6年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の持ち家率は約8割と高い水準にあります。持ち家は家賃負担がない一方、経年劣化による修繕費やリフォーム費用が突発的に発生するリスクを抱えています。
年金の繰下げ受給は、老後の収入を増やすための有効な手段のひとつです。しかし、田中さんのケースのように、増額した分が医療費や修繕費、物価高といった「想定外の支出」によって相殺されてしまう現実は多くの人が直面しうるリスクです。老後の「安泰」とは、単に月々の年金額が多いことだけではなく、こうした突発的な支出にも対応できるだけの備え(貯蓄)を、いかに準備しておくかにかかっているといえるでしょう。
[参考資料]
厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』
厚生労働省『年齢階級別1人当たり医療費(令和4年度、医療保険制度分)』
内閣府『令和6年版 高齢社会白書』