(※写真はイメージです/PIXTA)
厳格な父が残したの1枚のメモ
「父は昔ながらの“堅物の親父”でした。口数も少なく常識人。羽目を外しているところは、一度も見たことがありません」
津田大輔さん(45歳・仮名)です。今年初め、父・和彦さん(享年71歳・仮名)が倒れ、1ヵ月後、息を引き取りました。厳格だった父との関係は、決して密なものではなかったと大輔さんは振り返ります。葬儀を終え、気落ちする母を支えながら、大輔さんは実家の遺品整理を始めました。質素倹約、質実剛健……父を表現するのにピッタリな四字熟語です。無駄なものはなく、すぐに終わるだろうと考えていたといいます。
「父の書斎を整理していたとき、本棚の奥から、使い古された革の手帳が出てきました。パラパラとめくると、一枚の付箋が挟まっていました」
そこには、和彦さんのものと思われる几帳面な文字で「ID/PAS」とだけ書かれ、いくつかのサイト名らしきアルファベットと、意味不明な文字列が並んでいました。
「何の気なしに、書斎の隅に置かれたままだった古いデスクトップパソコンの電源を入れてみたんです。父がパソコンを使っている姿など、ほとんど見たことがなかったのですが……」
付箋にあった「PCログイン」らしき文字列を入力すると、驚いたことにデスクトップ画面が現れました。そこには、家計簿ソフトのアイコンと、見慣れないネット証券会社のブックマークがありました。大輔さんは、恐る恐るその証券会社のサイトを開き、付箋に書かれた別のIDとパスワードを入力。ログインボタンをクリックした次の瞬間、一郎さんは自分の目を疑いました。画面に表示された「資産評価額」の欄には想像だにしなかった「5,000万円」という金額が並んでいたのです。
「父さん、嘘だろ」と思わず声が出た大輔さん。堅物で、金銭に無頓着だと思っていた父は、実はやり手の投資家だったかもしれない……大輔さんがまったく知らなかった「父の裏の顔」を垣間見た瞬間だったといいます。