故人が生前、パソコンやスマートフォンで何をしていたか、家族はすべて把握しているでしょうか。 今、家族も知らない故人の「財産」が、誰にも気づかれないまま放置されてしまうケースが増えています。万が一の時、遺された家族が困らないために、何を知っておくべきなのでしょうか。
父さん、嘘だろ…71歳父、永眠。実家のパソコンに45歳長男がログイン、そこで見つけた「亡父の裏の顔」 (※写真はイメージです/PIXTA)

誰もが直面しうる「デジタル遺産」の現実

大輔さんのケースは、幸運にもIDとパスワードのメモが残されていた稀有な例かもしれません。もしあの付箋がなければ、和彦さんが築いた資産は誰にも知られることなく、ネット証券の口座で塩漬けになっていた可能性が高いのです。こうした、パソコンやスマートフォンのなかに残された故人の資産やデータは「デジタル遺産」と呼ばれ、今や相続における大きな課題となっています。

 

株式会社GOODREIが過去5年以内に相続を経験した人を対象に行った『新・相続実態調査2025』によると、実に「4人に3人(75.2%)」が、ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネーといった「デジタル金融資産」を相続した経験があると回答しています。また故人の年齢別にみても、70代の81%、80代の57%で、「デジタル金融資産の相続があった」と答えています。さらに故人が40代以下の場合は、全員が「デジタル金融資産を相続した」と回答しています。デジタル遺産は、もはや一部のITに詳しい人だけの問題ではなく、誰もが直面しうる現実なのです。

 

デジタル金融資産の相続は、通常の資産と比べて見落としが発生しやすもの。デジタル金融資産の相続期間は「6ヵ月~10カ月未満」が全体の16%、「10ヵ月以上」が全体の5%でした。相続税の申告期限は相続が発生してから10ヵ月以内。20件に1件は申告後にデジタル金融資産の存在が発覚したか、全容がつかめず申告期限を超えてしまったか。いずれにせよ、修正申告の必要に迫られたといえるのです。

 

遺族が存在すら把握していないケースが多く、パスワードが分からなければ、金融機関は口座の存在自体を教えてくれないこともあります。和彦さんのようにIDとパスワードを紙のメモで残すことは、アナログながら有効な手段のひとつです。

 

しかし、そのメモの保管場所が分からなければ意味がありません。生前から、万が一の際に備えてデジタル資産のリストを作成し、その保管場所を信頼できる家族にだけ伝えておく。あるいは、エンディングノートや専門のサービスを活用する。相続は「残される側」だけでなく、「残す側」もデジタル時代の準備が求められているのです。

 

[参考資料]

株式会社GOODREI『【新・相続実態調査2025】4人に3人がデジタル金融資産を相続』