パートナーの「お金」のことを、どれだけ知っていますか。真面目に暮らしていると思っていた配偶者が、実は借金をしていたら……。万が一の際、遺品整理でその事実を知った時、残された家族は「法」と「情」の板挟みになります。
全部ウソだったの…〈年金月17万円〉68歳元公務員夫、急逝。遺品整理で見つけた複数の借用書「計1,000万円」に65歳妻、絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

「法的正しさ」と「道義的責任」の板挟み

松井証券株式会社が2020年に行った『夫婦のマネー事情に関する調査』によると、夫婦間の隠し事の第1位は「お金関係」でした。さらに、自身の「貯蓄額」について、パートナーに「正確に共有している」と回答した人は46.8%にとどまり、半数以上(53.2%)が何らかの形で正確な額を伝えていない(「サバを読んでいる」「教えていない」)という結果が示されています。

 

これが貯蓄(プラスの財産)ならまだしも、借金(マイナスの財産)だった場合、深刻です。法的には、資産より借金が多い場合、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを取れば、借金を返済する義務はなくなります。

 

しかし、由美さんのケースのように、貸主が「恩義のある友人・知人」だった場合、残された家族は「法的な正しさ」と「人としての道義的責任」という過酷な板挟みにあいます。

 

由美さんは「法」よりも「情」を選び、自らの財産を売って返済する道を選びました。もちろん、法的には、由美さんが返済した1,000万円は、本来の債務者である義弟に「求償(返済を求めること)」する権利があります。

 

しかし、現実には、その権利を行使することは極めて困難です。そもそも返済能力のない義弟からお金を回収できる見込みは薄く、何より「夫を苦しめた相手」とこれ以上関わる精神的な苦痛は、計り知れません。由美さんは、事実上、この理不尽な結末をすべて一人で引き受けたのです。

 

「真面目だから大丈夫」「任せきっている」という信頼関係が、時として最大の隠し事を生むことも。お互いが元気なうちにこそ、資産と負債(ローンや借入、保証契約)の全体像を家族で共有しておくこと。それが、残された家族をこうした「究極の選択」から守る、唯一にして最大の防衛策となるのです。

 

[参考資料]

松井証券株式会社『<若年夫婦・熟年夫婦の実態を発表>夫婦間の隠し事1位は「お金関係」。半数以上が貯蓄額を正確にパートナーに伝えておらず、若年夫婦のサバ読み額は50万円!』