「買い物依存症」とは、買い物という行為そのものに心を奪われ、コントロールできなくなる状態です。買った瞬間の高揚感だけが目的となり、手に入れた物には興味を失う。そして、すぐに次の買い物のことで頭がいっぱいになり、後悔と衝動買いを繰り返す……。買い物依存は、アルコールやギャンブルと同じように人生を破壊しかねない問題でありながら、見過ごされがちな恐ろしさがあることにまだ多くの人は気がついていないようです。
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発覚した「隠れ借金」と、夫の“最後通告”

転機が訪れたのは、ナナミさんが42歳のとき。シュンヤさんが、クレジットカード会社からの分厚い請求書の束を発見したのです。そこには、ナナミさんが内緒でリボ払いや分割払いを繰り返し、数百万円に膨れ上がった借金の詳細が記されていました。

 

「どういうことだ! 説明しろよ!」

 

シュンヤさんの激しい剣幕に、ナナミさんはすべてを告白するしかありませんでした。買い物への衝動が抑えられないこと、買ったあとの罪悪感、そして借金の総額……。

 

涙ながらに謝るナナミさんに対し、シュンヤさんの反応は冷たいものでした。

 

「俺が稼いだ金をなんだと思っているんだ」

 

シュンヤさんは、すぐさまナナミさんのクレジットカードを取り上げ、毎月のお小遣いを厳しく管理するようになりました。しかし、ナナミさんの買い物衝動は収まりません。今度は、夫に隠れて消費者金融に手を出し、新たな借金を作ってしまうのです。それが再びシュンヤさんに発覚したとき、彼は静かに、しかしきっぱりと告げました。

 

「もう、君とは一緒に暮らせない。離婚しよう」

 

離婚調停、義父母の介入、そして親権喪失

離婚の話し合いの場には、シュンヤさんの両親も姿を現しました。「息子の大切な財産を使い込んだ」「母親失格だ」と、ナナミさんを激しく非難します。

 

そして、最終的に下された判断は、ナナミさんにとって最も過酷なものでした。離婚は成立。さらに、「経済観念がなく、子育てに適さない」として、息子の親権は夫であるシュンヤさんが持つことになったのです。

 

「あの子まで取り上げられるなんて……」ナナミさんは、法廷で泣き崩れました。

すべてを失って気づいたこと

現在、ナナミさんは実家に戻り、両親の助けを借りながら、派遣社員として働いています。かつての華やかな生活とは程遠い、質素な暮らし。年収は320万円で、わずかながら息子のために貯金を続けています。月に一度だけ、シュンヤさんの監視のもとで息子と面会することが許されていますが、その時間は短く、ナナミさんの心の傷が癒えることはありません。

 

買い物依存症はその後どうなったのでしょうか。

 

「一度自己破産しているので、買いたくても買えません。母親と一緒に定期的通院しています。SNSはやっていません。インフルエンサーが紹介するものがすぐ欲しくなってしまうから。いまの生活を人にみせたいとも思いませんし、人のキラキラした生活をみても、虚しくなるだけですからね」

 

当時をこう振り返ります。

 

「あのころは、本当にどうかしていました。お金があれば幸せになれると信じていた。でも、違ったんですね。私が本当に欲しかったのは、物じゃなくて、夫や息子との温かい時間だったのかもしれません……」

 

ナナミさんのように、買い物への依存に苦しむ人は少なくありません。その背景には、孤独感やストレス、低い自己肯定感など、さまざまな心の要因が潜んでいるといわれています。

 

買い物依存は、単なる「浪費癖」として片付けられがちですが、放置すれば本人だけでなく、家族の人生をも破壊しかねない深刻な問題です。もし、「やめたいのに、やめられない」と感じているなら、一人で抱え込まず、専門機関やカウンセラーに相談することも考えてみてください。

 

そして、家族や周囲の人は、「本人の甘えだ」と突き放すのではなく、その行動の裏にあるかもしれない心のSOSに耳を傾けることが、回復への第一歩となるのかもしれません。ナナミさんの後悔が、同じような苦しみを抱える誰かの、そしてその家族の気づきに繋がることを願ってやみません。