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現役時代は高収入でも「年金が多い」とは限らない理由
工藤さんが感じた「なぜ?」という疑問。小林さんは繰下げ受給制度を利用し、年金受給額を1.5倍近くにもなっていました
老齢年金は、原則65歳から受給が始まりますが、本人の希望により66歳から75歳までの間に受給開始を遅らせることができます。これを「繰下げ受給」といい、1ヵ月遅らせるごとに受給額が0.7%増額されます。小林さんのように70歳(60ヵ月繰下げ)から受給を開始した場合、65歳で受給するよりも年金額は42%(0.7%×60ヵ月)も多くなります。
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、令和5年度末時点、老齢厚生年金受給権者の繰下げ率は1.6%、国民年金の受給権者では2.2%。割合でみると少ないですが、着実に選択する人はふえています。
また現役時代、工藤さんは最高月収100万円を超えていたといいますが、厚生年金の保険料や将来の受給額を計算する基礎となる「標準報酬月額」には上限があります。現在の制度では、上限は第32等級の65万円です。
つまり、月収が65万円の人も、100万円の人も、納める厚生年金保険料は同じです。工藤さんが月収100万円を超えていた期間も、年金額の計算上は「月収65万円」として扱われていた可能性が高いでしょう。これが、工藤さんが「収入の割に年金が思ったより多くない」と感じたひとつの要因です。
高収入だったメリットを感じにくいのは、公的年金制度が所得の再分配機能を持つ「社会保険」であることが理由のひとつでしょう。しかし、高収入であったという自負が、かえって制度への理解を妨げてしまうとすれば、それは非常にもったいないことです。現役時代の収入だけでなく、「いつから受け取るか」という選択も含め、年金制度を正しく理解しておくことこそが、「まさか」を防ぐ鍵となります。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』、『厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて』
日本年金機構『年金の繰下げ受給』