現役時代に高収入であれば、当然、年金だって多いはず――そう信じている人は多いかもしれません。しかし実際は「高収入だったが、周囲とそれほど変わらない」と思っている、元・高収入の人は多いといいます。さらには、受取額は収入だけで決まるわけではなく、思わぬ「逆転」が起こることも。高所得者ほど見落としがちな、年金制度の現実についてみていきます。
なぜ、あいつのほうが年金が多いんだよ!〈最高月収100万円超〉70歳元エリート、同級生から聞いた「衝撃の年金額」に嫉妬 (※写真はイメージです/PIXTA)

順風満帆だったエリート人生…70歳で知った「年金額」

「まさか、地元に残った人間より、自分の年金が少ないなんて思ってもみませんでした」

 

工藤健二さん(70歳・仮名)。都内の有名私立大学を卒業後、大手製造業に就職。以来、定年まで同じ会社で勤め上げました。典型的な地方都市で生まれたなか、当時としては絵に描いたようなエリートコースを歩んできたといいます。

 

「そもそも、うちの田舎から東京に進学で出ていくやつなんて、本当に珍しい時代だったから。周囲から一目置かれた存在であることは自負していました」

 

50代の後半には役職にも就き、最高月収は100万円を超えていたといいます。

 

「大学を卒業して、25のときに結婚しました。しかし、男は仕事という時代でしたから、家族のことはそっちのけで仕事ひと筋に頑張りました。だから60歳で定年を迎えたときは、燃え尽きた感覚がありました」

 

再雇用で仕事を続ける人も多いなか、工藤さんは定年で仕事を辞める決意をかためます。将来的に月20万円ほどの年金が受け取れること、その金額が平均よりは多いことを知ったからだとか。周囲よりも多くの年金を受け取ることができる――少し、誇らしい気持ちになったと当時を振り返ります。

 

そんな工藤さんが「衝撃を受けた」と語るのは、先日の出来事。高校時代の同級生である小林さん(70歳・仮名)が、親戚の結婚式に出席するため上京するからと、久しぶりに会食する機会があったのです。小林さんは、工藤さんとは対照的に、地元の大学に進学後、地元の中堅の部品メーカーに就職。現役時代の給与も、工藤さんには遠く及ばなかっただろうといいます。

 

酒席が盛り上がるなか、話題は自然と年金の話になりました。「工藤はいいよな、現役時代に稼いでいたんだから、年金も相当な額だろう」と小林さんに言われ、工藤さんは自身の受給額を正直に話しました。すると、小林さんは少し驚いたような顔をした後、自身の受給額を口にしたのです。

 

「え? 俺、今月から受け取り始めたけど、月24万円くらいもらってるぞ」

(なぜ、俺より多い年金を?)

 

工藤さんは耳を疑いました。現役時代、明らかに自分よりも収入が少なかったはずの小林さんが、自分よりも月4万円も多く年金を受け取っているというのです。

 

「まあ、俺は年金を繰下げたから。1.5倍くらいにはなっているけど」

(年金の繰下げかぁ。自分には必要ないと思って、考えもしなかったが)

 

その場で算盤を弾いた工藤さん。

 

1.5倍ということは元々は16万円ほど。1年で48万円。これが東京の大企業勤めだった自分と、ずっと地元に留まった同級生との年金差。しかし実際には年金制度を利用し、自分よりも多くの年金を受け取っている。そもそも現役時代の給与差を考えたら、当初の年金差月4万円というのは納得がいかない。さらに、いつの間にか逆転までされているなんて――。

 

工藤さん、どこか嫉妬にも似たような気持ちを覚えずにはいられなかったといいます。